DO-IT Japan 2015 Report Disabilities, Opportunities, Internetworking, and Technology Japan 【見出し記号の凡例】 見出しレベルの大きいものから小さいものの順に、次の記号を使用しています。 # 見出しレベル1 ##  見出しレベル2 ###見出しレベル3 【見出し記号の凡例 終わり】 1ページ 表紙 DO-IT Japan 2015 2ページ 巻頭言 「自ら決めること」のはじまり  私は 2011 年から DO-IT Japan ではサブディレクターを務めてきたが、今年の春からディレクターを拝命した。今後は前ディレクターの跡を継ぎ、障害のある児童生徒・学生から将来の社会のリーダーを育てる下支えに努力していきたい。  さて、私がディレクターを引き継いた今年(2015 年)は、国連障害者権利条約(以降、「権利条約」と略す)に基づいて成立した障害者差別解消法の施行の前年である。障害者の社会参加のあり方について基本的なルールが大きく変更になる年の準備として、特に教育関係の各方面で、どのような考え方に基いて学校や教室が対応していけばよい のか、大きく関心が高まる年となった。  振り返れば、DO-IT Japan の活動も、図らずも権利条約の歩みと関わり合いながら進んできた。DO-IT Japan が始まった 2007 年は、日本が権利条約に署名した年である。その後、日本の国内法に「合理的配慮」が登場するのは、2011 年 8 月の障害者基本法の改正の年であり、署名から 4 年の月日が必要だった。しかし、DO-IT Japan では、2008 年頃から、将来の日本で「合理的配慮」がどのように合意形成されていくのか、その萌芽となる取り組みをスカラーとともに進めてきた。大学等の教育機関により決められた配慮の内容を唯々諾々と受け入れるのではなく、スカラーそれぞれが、自分も他の学生と同様、公平に学びの場に参加するために、どうしても必要と感じる配慮を教育機関に訴え、交渉してきた。結果として、日本ではかつて前例のなかったいくつもの配慮を、スカラーが切り開いてきた歴史がある。  DO-IT もまた、スカラーとともに歩む中で、「合理的配慮」について学び、考えを深めてきた。公平に教育に参加する上で必要だと感じたことを、他者に決められたことではなく、自分自身のニーズに基づいて求め、そこから関係者の合意形成を構築していくことが「合理的配慮」の本質である。障害のある当事者以外が、本人を抜きにして父権主義的に多くを決めてきた過去とは異なり、本人の「自己決定」を尊重することがやがて常識となる。もはや障害のある子どもたちは「他者から一方的に決定され、助けられる人」ではない。  「いつも他者に決められること」は、見方を変えれば楽な面もある。何も言わなくても毎日食事が出てくる。部屋の掃除や片づけが終わっている。余暇に出かける先も移動から宿泊から誰かが用意してくれている。勉強する内容はいつも誰かが決まったカリキュラムを用意してくれている。進学先は誰かが決めてくれている。就職先もよくあるところに自然 に決まっている。かつてはそれ以外を選ぶ道が見当たらなかったかもしれない。それだって悪くはないものだ。しかし今後、社会は「決めて与える」スタンスしかない状態から、「決定を尊重し待つ」スタンスを新たに持つようになる。  自己決定にはいつも恐れや不安がつきまとう。しかし、本来それは恐れるべきことではない。塀を超えた壁の向こうの土地へ、ブイで区切られた海域の先へ、道を選ぶことができる若者は失敗を重ねながらも、新しい価値を見つけ出していく。価値を見つけることに成功や失敗はあるが、そこに向かう人々を私たちは「社会のリーダー」と呼ぶのではないだろうか。切り開く人の前にはいつも新しい視界が広がる。後ろには道ができる。DO-IT ではそれを参加者皆で共有してきた。  今、私たちは合理的配慮という名の道を切り開く道具を手にした。教室でICTの使用が認められたときと同じだ。必要ない人には、ほんの取るに足らないことと思えるかもしれない。しかしその意味や価値を知る人は、無限の可能性を手にしたと確かに感じられるだろう。そして一度道具を得た先、それを活かして夢に向かう道を切り開くのは本人の自己決定である。差別解消法が施行される 2016 年、DO-ITは10年目の区切りを迎えることになる。「自ら決めること」を問われる時代が今、始まろうとしているのだと期待したい。 DO-IT Japan ディレクター 近藤武夫 3ページ目 目次 DO-IT Japan 2015 レポート Diversity, Opportunities, Internetworking, and Technology 「自ら決めること」のはじまり 2 目次 DO-IT とは 4 1 スカラープログラム 5 夏季プログラムを終えて 11 2 ジュニアスカラープログラム 24 夏季プログラムを終えて 27 3 DO-IT Kids プログラム 28 4 DO-IT School プログラム 29 5 スカラーのチャレンジ 30 6 一般公開シンポジウム 32 7 DO-IT Japan の概要と未来への展望 34 4ページ目 DO-ITとは 2015 年度、DO-IT Japan は新しく変わり、3 つの柱で動いています。  これまで、少人数の選抜・採用をしていた小学生を、『DO-IT Kids プログラム』というアウトリーチ・プログラムに拡大しました。学習上の困難につながる多様な障害や病気のある小学生とその保護者へ、情報を広く届け、学びの機会を提供するアウトリーチ・プログラムになりました。  『DO-IT スカラープログラム』は、進学を目指す多様な障害や病気のある中学生、高校生、大学生を対象とします。選抜制で、本人の学びへの強い希望、社会に向けた発信力とリーダーシップを評価します。選抜された学生は、「スカラー」と呼ばれ、「テクノロジーの活用」を中心的なテーマに据え、「セルフ・アドボカシー」、「障害の理解」、「自立と自己決定」などのテーマに関わる活動に参加しました。また、これまでに選抜された、小学生・中学生スカラーは、「ジュニアスカラー」として参加しました。  また、DO-IT スカラープログラム内に、今年から新しく、中学生を対象とし、高校入試においてICT の活用が進んでいない状況を打開することを目的とした「アコモデーションコース」を開設しました。選抜されたアコモデーションコースの受講生は、ICT 機器活用の習熟度に応じて「ベーシック」と「アドバンスト」の 2 つのクラスに所属し、スカラープログラムの一部に参加しました。  『DO-IT School プログラム』は、障害のある児童生徒・学生たちの社会参加を支援・促進する活動を、DO-IT Japan 協力企業の方々と拡げていくための取り組みです。障害のある人々だけではなく、その周囲の学校や機関にテクノロジー製品やサービス、およびその活用ノウハウを届ける働きかけを行うことで、配慮のある社会環境の実現を目指しています。DO-IT School では、DO-IT Japan、及び、それぞれの協力企業各社が持つリソースを活用した独自のプログラムを全国に展開しています。 (図 DO-ITの組織図) ・スカラーズ 【中・高・大学生対象】 障害のある児童生徒・学生に直接プログラムを提供する ・DO-IT Kids 【小・中学生対象】 子どもや保護者に情報を届ける ・DO-IT School 【学校対象】 環境の設備を支援する 5ページ目 1 スカラープログラム 今年選抜されたのは、中学生から大学生までの 13 名のスカラーたち。出身地も学年も障害も様々な彼らですが、それぞれ熱い思いを胸に、8 月の夏季プログラムに参加!テクノロジーやインターネットの基本的な操作、高等教育機関における障害者への配慮の現状、自分自身の困難と必要な配慮を周囲に伝える説明の仕方など、知りたい情報がたくさん!東大先端研でそれぞれのスタートを切りました。 (写真 ディスカッションの様子) 6ページ スカラープログラム/夏季プログラム 8月2日(日) # 10時 オリエンテーション 参加者全員が集合する最初のプログラム。ディレクターの近藤より、先輩スカラーたちがこれまで行ってきたチャレンジや、協力企業の紹介があり、DO-IT Japan が目指す未来の社会について、考え方を共有しました。 # 11時半 ランチセッション「自己のニーズを的確に伝える」 自分の困難さとは何なのでしょうか?どのようにすれば、自分がやりたいことができるのでしょうか?自分自身の困難と必要な配慮について参加者に向けて説明し、進学後に周囲にどのように支援を求めていくかについて議論を行いました。大学に進学した先輩スカラーや大学生チューター、アドバイザーからの意見が議論を膨らませました。 # 13時 ディスカッション 「合理的配慮とは、セルフアドボカシーとは 先輩と話をする 〜大学の暮らし, 配慮の求め方〜」 高校卒業後の生活では、自分でスケジュールを立案・確認し、行動する機会が増えます。また、一人暮らしや旅行など、自分で決めることができる生活上の選択肢も増えます。その際、「自立」という言葉をよく耳にしますが、「自立」とは一体何なのでしょうか。障害のある大学生は、どのように時間を調整し、予定を組み立てて生活を送っているのでしょうか。公共交通機関をうまく利用したり、周囲に支援を依頼したり、身近なテクノロジーを活用したり・・・ 先輩たちのリアルな話は、スカラーにとって自らの困難や社会サービスの利用について気づくきっかけとなりました。 # 17時 歓迎パーティ! ## Sponsored by 沖電気工業株式会社 毎年増える参加者へ印刷物を用意する必毎年増える参加者へ印刷物を用意する必要がある夏季プログラムでは、印刷スピードとクオリティを兼ね備えた高性能なプリンターが必須です。今回、プリンターを複数台ご貸与いただき、配布資料や講演等の案内図の印刷用に使用させていただきました。鮮やかな講義資料がスカラーたちの学びを支えてくれました。 ## Sponsored by 株式会社トヨタレンタリース東京 体温調整が難しい人や体調に変化が起こりやすい人にとって、夏の暑い時期にスムーズな移動方法を考えることはとても重要です。今回、リフト付き 車両を複数台お貸しいただきました。スカラーが自ら移動方法を選択したり、リフト付き車両の持つサポート機能を知る機会になりました。 ## Sponsored by 株式会社京王プラザホテル 地元を離れて、新しい場所で生活を体験する夏季プログラムは、スカラーにとってはワクワクとドキドキが入り交じる経験です。今回、ユニバーサルルームの宿泊プランをご提供いただきました。一流のホテルでサービスを受けることや、さまざまな機能を もつユニバーサルルームを使用させていただいた経験は、スカラーたちが将来の自分の振る舞いを考える機会になりました。 7ページ 2015年8月3日(月) コンカレントセミナー 大学の授業は、自分が学びたい授業を自分で選択して参加することができます。もちろん DO-IT の講義だって同じ!最先端のテクノロジーを活用する、自分が感じていること、聞きたいことを他者とじっくり語り合ってみる…自分が知りたい!行きたい!と思った講義へ参加しました。 # 10時 コンカレントセミナー1 ## テクノロジーを活用せよ!大学講義体験 高橋 宏知 東京大学先端科学技術研究センター 東京大学先端科学技術研究センターで世界最先端の研究をされている先生を講師としてお招きし、大学の授業を体験しました。その際、自分が学ぶために必要な配慮を講師に説明したり、授業中に支援機器を活用したりするなど、大学進学後の学習に必要になることを実体験を通じて学びました。 ##息をすること、呼吸器の意味 多田羅勝義 DO-IT アドバイザー 息をすることは、人間だれもが当たり前にしていること。しかし、災害などライフラインが制限された場合、人工呼吸器を利用している人の呼吸は、どのようなものになるでしょうか。また、呼吸器をつけたときの感覚は、実際にどのようなものでしょうか。最先端の呼吸器を実際に体験!当たり前とされていることを見直すきっかけとなりました。 ##聞こえと疲れの関係 熊谷晋一郎、坂井聡 DO-IT スタッフ、DO-IT アドバイザー 聞こえと疲れは、関係しているのでしょうか?実は、聞こえすぎることで情報が多いため疲れたり、聞こえにくいことで情報を探して疲れたりすることがあります。話される情報を目的や項目にわけて整理した話し方の聞こえ方について、また、聞こえを助ける機器の導入など環境調整を入れた場合の 2 つの視点から、聞こえ方と疲れ方について意見を交わし合いました。 # 11時半 ランチセッション 日本の福祉制度とコンフリクト 障害のある人の生活を支えてくれる制度について、深く知ったり相談する機会は、なかなかありません。制度による支援に支えられながら一人暮らしをしている先輩スカラーの具体的な体験を交えて話がされました。障害者基礎年金や障害者総合支援法について、地域格差や障害種別間の格差について、白熱した議論を行われました。 ## 写真撮影の際、東京大学先端科学技術研究センターの福島智先生に、ご挨拶いただきました(福島智 東京大学先端科学技術研究センター)。 # 13時 コンカレントセミナー2 ## 見えない障害とカミングアウト 飯野由里子(東京大学)、奥山俊博(DO-IT スタッフ) 発達障害や精神障害、内部障害などの障害や LGBT など、外見では見えない生活上の困難を抱えている人がいます。自分の特性について、伝えなければならない瞬間とはどのようなときなのでしょうか?また、自分ならどのような伝え方をするのか、どんな風に話を聞くのでしょうか。カミングアウトをテーマとして、皆で語り合いました。 ## 大学での障害学生への『支援』とは何か 西村優紀美(富山大学)、村田淳(京都大学)、星加良司(東京大学)大学には、障害のある学生をサポートする専門部署が置かれるようになってきています。その中で行われる支援とは、一体どのようなものなのでしょうか。また、障害学生支援サービスを利用する私たちは、どのような配慮を求めていくでしょうか。各大学での支援に関する情報提供をいただいたうえで、私たち自身が望ましいと考える障害学生支援サービスのあり方について、意見を交わし合いました。 8ページ # 15時 コンカレントセミナー3 ## 印刷物障害と文字・文書の価値 澤村潤一郎(社会福祉法人 日本点字図書館)、安藤大輝(国立国会図書館)、安藤一博(国立国会図書館) 印刷物の利用に障害があることで、紙でない形だけで情報を得る人々や、文字言語ではなく手話言語で情報を伝達しあう人々では、多数である「紙の情報を基本とする人々」とは異なる情報への価値観を持っているのでしょうか。文書のスペシャリストである図書館員の方々と議論しました。 ## 私たちの『働く』を語る 長嶋愛(NHK)、茂木脩佑(NHK)、永野椎奈(キリン株式会社) 社内での支援を自ら求めて、支援者をつけて働いている NHK の長嶋愛さん、また、最近大学を卒業して、一般企業の中で働き始めた先輩のスカラーたちからの話題提供がされました。それをきっかけとして、障害のある私たちが社会の中で働くことについて議論を交わしました。 ## 電動車いすを究める 渡辺崇史 DO-IT アドバイザー、奥山俊博 DO-IT スタッフ 電動車いすと一言いっても、非常に奥深いものです。サイズやクッションなどのフィッティングを行うことで、快適さが変わってきます。また、簡易電動車いすではなく、フルサイズの電動車いすに乗ることで、支援できる生活スタイルの幅が変わってきます。実際に、フルサイズの電動車いすと簡易電動車いすを乗り比べ、乗り心地や利用の仕方について、話あいました。 ## 障害のある学生として海外で学ぶということ 岡田孝和 明治学院大学、蔵本紗希 DO-IT08 スカラー、川端舞 DO-IT08 スカラー 海外で学生として学ぶことに対して、どんなイメージを持ちますか?海外での生活の経験をもつ障害のある先輩たちの中には、障害に対する違いやライフスタイルなど、日本でとらえられていた障害感をかえるきっかけになった人もいるようです。実際に海外で暮らした中で見えてきた時間の使い方や暮らし方について、海外の生活や大学の進学に感心があるスカラーとともに、意見を交わし合いました。 # 17時 イブニング・セッション セッション 1 生きる、出会う、行動する 貝谷嘉洋 特定非営利活動法人日本バリアフリー協会 愼允翼 DO-IT13 スカラー セッション 2 DO-IT スカラーからの話題提供 多くの先輩や仲間たちの実体験や考え方に触れることは、スカラーたちが将来へのロールモデルを得たり、自己や他者、社会に対する視点を拡げる機会となります。日本バリアフリー協会を設立し、夢にむけてチャレンジを続けている貝谷嘉洋さん(日本バリアフリー協会・代表理事)より、実際に一人でアメリカに飛び込み、一から支援体制を作りながら学んでいった経験をお話いただきました。続くは、13 スカラーの愼允翼くん。障害の価値観は、スカラーである自分たちが変えていくことへの熱い思いを伝え、スカラー同士、障害の価値・つきあい方について話し合いました。 ### Sponsored by 旭洋鉄工株式会社 車いすユーザーが、タブレットを操作車いすユーザーが、タブレットを操作するには、車いすと各機器にフィットすることができるアームを探さなければなりません。今回、タブレットを取り付けられるアーム「RightNow」を貸与いただきました。身体の状況と車いすの形状に合わせた「個人に合わせた調整」ができることを提示いただきました。 9ページ 2015 年 8 月 4 日 (火) 日本マイクロソフト株式会社 品川本社 読むことや書くことに困難のある障害のある児童・生徒は、教室での勉強、高校入試や大学入試で、皆と同じ方法では自分の持っている力を発揮しきれていない可能性があります。そんなとき、パソコン等のテクノロジーは、日常生活でいつも私たちを助けてくれる大切なパートナーとなります。DO-IT Japan 共催企業である日本マイクロソフト株式会社を訪問し、教育やビジネスの現場で使用されている最新のテクノロジーの利用方法を知り、自らの学習や生活に活用する方法を学びました。 # 10時 コンカレントセミナー ## 思考を整理するテクノロジー利用 レポートや課題の提出をこなしていく必要がある大学生活。自分の考えを文章で伝える力が求められます。また、自分の困難さに対する支援を大学に求めていく上でも、論理的に説明していくことはとても大切です。思考を整理する方法の一つ「マインドマップ」によって頭の中を整理することで、論理的な文章を組み立てていく方法を学びました。 ## オルタナティブ・アクセス 〜音声読み上げ(Text-to-Speech)やハイライト、見た目の調整を使いこなす〜 障害によりキーボードを打つことが難しい人や、画面を見ることができない人は、市販されているパソコンを使うことは難しいのでしょうか。先輩スカラーたちのパソコンの活用方法を介しながら、障害のある人がパソコンを操作する際に便利な Windowsの標準機能「アクセシビリティ機能」の活用や、音声読み上げ機能ソフトの活用方法について学びました。 昼食 # コンカレントセミナー 午後は、前半で得た情報を活用・応用する時間!得た知識を、実際に自分の生活に併せて更にフィッティングを行いました。 ## デジタルノート僕らの紙と鉛筆だ!〜 OneNote を使いこなす〜 ## Windows のアクセシビリティ機能を個々のニーズに合わせてフィッティングしよう ## 一歩進んだ使いこなし〜スクリーンリーダーや数式の入力と読み上げ@〜 ## オルタナティブな入力方法を身につける〜 OAC や代替入力機器の利用〜 ## 一歩進んだ使いこなし〜スクリーンリーダーや数式の入力と読み上げA〜 ## スケジュール・ハッキング〜 ToDo や未来の見通しをサポートするテクノロジー利用〜 ### Sponsored by 日本マイクロソフト株式会社 大島友子 日本マイクロソフト株式会社 技術統括室 プリンシパルアドバイザー 利便性の高いソフトウェアは、自分のやりたいことを実行する際の良きパートナーとなってくれます。学習や生活を豊かにする最新のオフィス「Microsoft Office365」、及び、「Skype for Business」をご提供をいただきました。また、品川本社を夏季プログラムの研修会場としてご提供いただきました。 ### Sponsored by 株式会社 日立ソリューションズ・クリエイト 印刷物を読むことに困難がある生徒が、紙面の情報を得るためには、印刷物のテキストデータを、パソコンの読み上げ機能を利用することになります。今回、高品質の音声エンジン「ボイスソムリエ・ネオ」をご提供いただきました。 ### Sponsored by 富士通株式会社 便利なソフトウェアを最大限に活用するためには、パフォーマンスの高いパソコンの存在は欠かせません。今回、最新のノートパソコンをご提供いただきました。 ### Sponsored by 特定非営利活動法人 サイエンス・アクセシビリティ・ネット 読むことに困難がある学生にとってテキストを読み上げてくれる支援が必要です。日本語や英語に加え、数式を読む機会もでてきます。今回、数式を読み上げてくれる「ChattyInfty」を貸与いただきました。 10ページ 2015 年 8 月 5 日 (水) # 10時 討論会 !「どのように説明するか」 最終日は、中邑(DO-IT Japan・顧問)が大学教員の立場に扮して登場!自分の困難の状況説明や、求めたい具体的な配慮内容など、論理的に配慮を申請する模擬面接にチャレンジ。この 4 日間で学び、議論しあったことを活かして、自分自身が相手へ配慮を求める準備になりました。 昼食 # 13時半 一般公開シンポジウム 鉛筆で文字を書けない生徒のキーボード利用は非合理的か? ? 合理的配慮の提供に向けた合意形成の具体例を考える ? →6 一般公開シンポジウム(p.32)参照 「障害者差別解消法の施行に向けて」 文部科学省 初等中等教育局 特別支援教育課長 井上 惠嗣 「高等教育段階における障害のある学生支援にいて」 文部科学省 高等教育局 学生・留学生課 課長補佐 小代 哲也 【話題提供】 ・書字障害のある生徒は公立高校受験でキーボードを利用できるか ・肢体不自由のある生徒は大学入試二次試験で数式入力ソフトが利用できるか ・読字障害のある生徒は大学入試センター試験で音声読み上げを利用できるか ・弱視の生徒は大学入試センター試験で音声読み上げを利用できるか ・発達障害のある生徒が通常の教室で ICT 利用が許可される/されない背景 ・合理的配慮としての ICT 利用許可を求める場合に大切な考え方 # 16時半 DO-IT Japan2015 スカラー 修了証授与式 2015 年度のスカラーへ、夏季プログラム修了を記念して、修了証が授与されました。スカラーたちは 4 日間に渡るスケジュールを振り返り、自分自身が感じたこと、これからに向けての気持ちを来場者に伝えました。 # 17時 公開シンポジウム・DO-IT Japan 参加者の交流会 11ページ 夏季プログラムを終えて # 桂川 笑果 岐阜県/中学 3 年 ここは、答えを出す場ではなく、考えを交流する場私にとってこのプログラムは、すべてにおいての挑戦だと思いました。緊張なんてこれぽっちもしていませんでした。その代わりに不安がとても大きかったです。  しかし、実際に参加して、高校生、大学生と、自分より年上の人と一緒に講義を受けているうちに、不安はなくなっていきました。私はいつも、学校の 授業を聞いていると頭がオーバーヒートしてきます。けれどこの 4 日間は、そんなことは一回もありませんでした。講義を受けていくうちに、どんどん頭の中で自分の考えが思いついてきました。その自分の考えをその場で言葉にする!すごい、この場所!楽しい!の連続でした。「わかった!」ではなく、「そういう考え方もするんだな。」という発見もありました。ここは、答えを出す場ではなく、考えを交流する場。だから自分の考えを発信していいんだ!学校だったら、「おめーちょっと黙っとけ」と言われるけれど、ここだと誰かがつなげてくれる。反対の意見も出してくれる。と嬉しくなりました。  私が一番印象に残った講義は、自立についてです。私は、何かにめちゃくちゃ依存している生活をしているわけではありません。今まで、自立の話はたくさん聞いてきました。毎度毎度「自分の足で立つということが自立と言うんだよ。」と先生は言ってきました。けれど、熊谷先生は、そんなことを一言も言いませんでした。ただし「依存することはない」と言っていました。確かに、依存していたら、自立はできないと思います。これも、講義中に出てきた話ですが、肢体不自由の人が自立しようと思ったら、ヘルパーさん、家族につきっきりで介護されていたら、その時点でもう依存ということです。介助なしにするということではありません。その特定な人にへばりついてはいけないことです。  しかし、併せて、依存は、急に止められない。と聞いたとき私は、「え?そうなの?」と思いました。けれど、依存は治せない、依存を治すためには、依存先を広げていくのが一番だ。と熊谷先生は言いました。これから私は、一人暮らしをするかもしれません。そしたら、私の依存は減るかもしれませんし増えるかもしれません。私は家では、母に依存しているに近いかもしれません。自分の秘密にして動くこと以外ほとんどが、母に手助けをしてもらっています。だけど、今回前日入りを含めたこの五日間、一人で東京に出てきました。今まで、東京に一人で来るということは何度もありました。けれど、自分で計画を立て、一人で宿泊をするということは初めてでした。初日の DO-IT からホテルに帰ろうとした時は、ホテルになかなか辿り着くことが出来ませんでした。もし、ここで誰かいれば、私は 2 時間渋 谷駅をさまようことはなかったと思います。しかし、私の iPhone は英語表記に設定がなっていて、地図を広げて案内してもらっても英語で案内してくるから何を言っているのか全く分からない状態が続いていました。英語表記を日本語に戻そうとしたら携帯が 再起動されるし、パニックに陥っていました。切符売場で道を聞いてみても、たどり着けない。やっとの思いで母に電話をし、改札口にいるお兄さんにホテルがどこにあるかを聞くことが出来ました。ホテルに着き、無事チェックインすることが出来自分の部屋についた瞬間「これが、熊谷先生が言っていたことか!」と思いました。さっきまではこういうこと かな?という納得でしたが、体感してみて違う納得が私の中で生まれました。すごく、すごく嬉しかったです。  今まで私は、自分の障害を表では理解しているつもりで、自分の中では障害を理解していませんでした。部活の試合の時、ほかの学校の子に「試合表を記入して下さい」とお願いされました。私は「無理です」と答えました。相手の方はとても驚いていました。自分の書けないという一言だけでも伝えることが出来ませんでした。通っている学校だと、みんな顔見知りだから、「私、字が書けないから代わりに書いてくれる?」と伝えることが出来ます。DO-ITに参加して、自分のニーズをどう説明すればいいのかということを伝えるって大切だなと思いました。今回、ホテルのチェックインの時、「こちらにご記入下さい」と言われ、私は名前だけ書いて「私、字が書けない障害を持っているんです。」と素直に伝えました。そしたら「そうですか。では、名前だけで大丈夫です。ご苦労されましたね。」と言われました。私は驚きを隠せませんでした。地元でサインするとき「私、字が書けません」 といったら、はっ?!という目で見られます。この差は何だろう、と同時に思いました。けれどあの言葉を聞いて、伝えるって大切だなと思いました。次の日定期券を買うときも記入が必要だったので、昨日と同じことを伝えました。そしたら、ホテルの時のよう にあっさり受け入れてくれました。私は、伝えることがとても楽しくなりました。  DO-IT では、学校とは全く違う楽しみ、学び、共感、意見をわかりあえてとても楽しかったです。あと、お土産を要領よく買うことが出来たので自分を褒めたいです。 ## 保護者より 普段から前向きな娘だけど、その前向きな考えが重荷になり体調を崩すことがしばしばあった。学校に理解を求めるのがこんなにも難しいとは。3 年かかっても、いまだ理解されない怖さ、DO-IT では、理解が当たり前にされているギャップ。楽しくて仕方がないこの数日間。緊張もあったかもしれないが、嫌味を言われたりしない数日間。このままDO-IT に甘えてほしくないと強く思うと共に、もっと教育現場に知らせる必要性を強く感じました。ホテルでチェックインの時は、名前だけ書いて(たぶん鏡文字)書けないことを伝えると。「ご苦労されていますね」といわれる理解度の高さ。参加することで、生きる術を学んでいった娘。娘の状態は小 3 からわかっていたので、その時からPC が使えていたら、読み上げの補助があったなら、もっと今以上にいろんなことがわかっていただろうと考えてし まう。その反面 DO-IT から帰ってから本当に画面ばかり見ている。いつも片手に持ち画面に夢中でごみの上に平気で座っていた。いろいろ使えるようになったから仕方がないのかも、今やっと日常生活や勉強の場での iPad の使い分けの時が来ているのかなと感じています。 12ページ # 渋谷 友哉 徳島県/中学 3 年 考えをちょっと変えるだけで物事は大きく変わる 8 月 1 日午後 2 時、僕は夏季プログラムに参加するため、飛行機に乗っていました。その興奮は言葉では表せないような、まさに夢の中にいる気分でした。  そして迎えた当日。初めての家族以外との都会での移動。アテンダントさんとドキドキ・ワクワク・不安も交じる中、先端研へ向かう。「おぉ。先端研だ!」と敷地へ入ると、突然パシャパシャとシャッター音。カメラマンがいてそこで「あぁ、もうプログラムは始まっているんだ。」と実感した。  午後からのディスカッションでは、意見を言おうと心がけていたのに押されてしまい、そこで僕はDO-IT ってこういう場所なんだと思い知らされることになりました。周りのスカラーが次々と意見を発表している。しかも、全員の意見が共感できるようなものでした。これは理にかなっていると思った。そう考えているうちに、あっという間に時間が過ぎていった。自分も意見を発表したが、上手く言えた気はしなかった。「僕は何をしているんだ?」という反省点が残った。  こうして初日が終わった。ホテルに帰ると、とてつもない身体の疲れがあり、プログラムも頭に入ってきにくかった。そこは気力でカバーし、何とか乗り越えたけど、これで最終日までもつのだろうか…と思ってしまう程であった。  2 日目、待ちに待った大学講義体験で、脳科学の話だった。最初は何を言っているのか全くわからなかった。しかし、ある瞬間、脳にストンと内容が入ってきた。そうするとパラダイスで、全ての内容が理解できて、この時間が永遠に続けば良いのになと思うくらい魅力的で、非常に面白かった。この話はホテルに着いてからも母に話し続けました。  電動車いすの講義でも、意外と知らない事もあり納得しました。世界では障がいを持っている人も普通に働けたり、職場が多かったりしているのに対し、日本はどうなんだ?何事にも遅れているのでは?と疑念を抱いた。  3 日目、マイクロソフト社に向かうために山手線に乗ると、通勤ラッシュに巻き込まれ、人一人のスペースもない程混雑していました。ようやくこの 2日間で筋緊張も落ち着きつつあったのに、一気に緊張が高まりました。行く道だけでヘトヘトになりながらマイクロソフト社にたどり着きました。  マイクロソフト社では、僕が学びたかったテクノロジーの活用方法を教わりました。OneNote や、PC の設定の仕方など、普段の僕ではわからないことも、先生方が指導してくれました。例えば僕の場合、タッチパッドを使って PC を操作していますが、先生方がジョイスティックも使っていたよね?ジョイスティックを使うといいよと言って下さったり、コントロールパネルを開きスクリーンキーボードの使用を勧められました。ホテルに戻り、母に言うと、以前も使ったことがあるよと言っていましたが、それは僕が年少期だったのですっかり記憶にありませんでした。IC レコーダーも渡されたので、活用出来たらいいと思います。  そして、ついに最終日。過ぎる時間が早かったということは、楽しめていた証拠なのだと思います。最後のプログラムは D 先生プログラムという、自分の障害のことを様々な視点から見て、障害を人に伝えるといったものでした。自分の意見を出そうと思って挑みましたが、なかなか良い案が出てきませんでした。ちょうどその時、新幹線の話題になりま した。それは、車いすに乗っている人は場所をとる面積も大きいから料金も2倍、3倍にすればいいじゃないか!という D 先生の発言がありました。そこで僕は、同じ様な考え方をすればいいんじゃないかと思い、案を考えました。その案とは、エレベーターに乗る人は料金を支払うというものです。そうすれば大行列にならなくてすむだろうと。東京に来た時、駅でエレベーターに乗ろうとしたら、そこへ行列ができていました。高齢者の方もいましたが、見るからに健康な人がたくさんいました。僕はそこで長い時間待たされることになりました。そのことを発表しようと手を上げると、たまたま D 先生が当ててくれずにプログラムが終了となりました。もっと声を出そうと思いました。  4 日間 DO-IT に参加して、やはりもっと発言をして行かなければと思いました。僕は話すことは苦手ではないはずで、むしろ得意な方なのに、周りのスカラーにはとても驚かされました。特に大学生のスカラーの方々は、正にリーダーといった感じでし た。DO-IT で出会った仲間は素晴らしかったと思います。すごく疲れはしたけれど、得たものはそれより大きかった。考えをちょっと変えるだけで物事は大きく変わる。僕もみんなに追いつけ追い越せの精神で、DO-IT 夏季プログラムでの経験を、今後に生かせるよう頑張って行きます。 ## 保護者より 面接には味方が会いに来るよ!緊張しなければ良いなと思っていました。友哉は面接では案の定緊張は高く、車いすもギシギシ音を立てて揺れ、声まで出しにくくなっていましたが、さすがそこは中邑先生!話の持って行き方が上手く、緊張も取れ会話が成り立ちました。私達は合否に関わらず中邑先生と話ができて良かったねと言っていたのですが、7月に入りスカラーの採用決定には喜びました。  DO-IT は全てにおいて自己選択・決定。余裕こいている友哉に泣いて来い!と言ったものの、ブックなど用意されていない、詳しくも知らされていないのにはこちらも焦らされました。後にそれが DO-IT 流なんだと気付く。  夏季プログラムでは心身共に疲れ果て、驚きの連続だったようですが、変化は現れ自分で調べたり、スタッフへの連絡もしていました。脳科学の講義が実に面白いとレジメを出して内容を説明しだしましたが、私はチーン…でした(笑)DO-IT に参加し、様々な気付きもあり、人との出会いはとても重要。東京を暴走したmachine 乗り友哉。越えたハードルは必ず自分を守る盾となる!  先生方、スタッフ、ヘルパーの気遣い等よくして頂いたと聞きました。スカラーとも楽しく過ごしたようです。皆様にはこの場をお借りして御礼申し上げます。 13ページ # 東良 航太 奈良県/中学 3 年 自分の変化に驚きました まず最初に伝えたいことは「感謝」です。DO-ITに関わる全ての先生方、スタッフの皆さん、ヘルパーの皆さん、ボランティアの皆さん、本当にありがとうございました!素晴らしい経験が出来ました。これから感想を書きますが、お世話になった皆さんの一人一人の顔を想いだしながら書こうと思います。  僕は、このプログラムに参加して、たくさんの今まで知らなかった世界に入ることができました。  初日受付まで行き、そこからはずっとヘルパーさんやスタッフの方々と行動して、初めて親元から離れて一日過ごしました。今まで僕は、学校の友達が友達同士で遊びに出掛けていたのを見て、一回友達と出掛けてみたいなと思ってはいましたが、結局出来ずにいました。今回初めて親元から完全に離れて行動するとなって、とても楽しみでしたが、不安な気持ちもありました。でも、参加しているうちに、意外と出来ていることに気がついて、とても嬉しかったし、守られている環境の中で過ごすのではなく、自由な環境の中で自分で考えて、自分の責任で動くということが、想像していたよりもずっと楽しかったです。一つのものを頼りすぎないことが大切という講義も受けて、これからは、もっと積極的に自分から殻を破って外に出ていこうと思える自信が持てました。後日ふと自分一人で電車に乗ってみようかなと自然と思ったときは、自分の変化に驚きました。  また、参加された方の中には、僕とはまた違った大変さがある方や、同じような苦労をされている方もいましたが、それでも社会に出ていたり、進学を目指していたり、これなら負けないというような一芸を持っている方ばかりでした。自分のできるところを活 かして毎日を過ごしているという共通点があるなと思いました。皆さんそれぞれ何か光るものを持っていて、それを上手に使ってすごいことをされていたので、本当にすばらしいなと思いました。まだこれから見つけることになりますが、僕も自分の光るところを上手に 使って、しっかりと毎日を過ごしていきたいです。また、自分のことだけじゃなくて他の人の光るものをちゃんと見つけられるような人にもなりたいです。  今まで知らなかった、たくさんの身近にある機械をより使いやすくする方法も学ぶことができました。タブレットを使って自分の考えを整理したり、できるだけはやく文字を入力するツールを出したり、数式を入力したりすることなど、自分で簡単にできるやり方 を、マイクロソフトの本社や、東大先端研で教えてもらいました。こんなところにこんな機能がある、ということを、教えてもらって見つけていくのが楽しかったです。  また、電動車椅子のバッテリーや使いみちの種類やその選び方、タイヤが乗り越えられる段差の高さなども教えてもらい、普段何気なく乗っている電動車椅子はこんなに奥が深かったのだと驚き、おもしろいなと思いました。これからは自分自身でじっくり考えて、選んだり乗ったりしていきたいです。  また、夜だけつけている呼吸器の大切さや他の治療法、呼吸器のマスク種類なども教えてもらいました。人間の脳は、酸素が 5 分来なかっただけでも元通りには戻らないという話には驚きました。改めて僕にとっての呼吸器の大切さに気付きました。僕もしている電動車椅子サッカーでは、日本代表になる上手な選手でも常時呼吸器をつけている方も多いです。選手も、呼吸器を調節できる先生もすごいし、僕も頑張って日本代表選手になろうと強く思いました。  あと、これから自立して進学したり社会に出ていくために、自分の病気についてしっかり考えて、相手に上手に伝えて手伝ってもらったり、学校での無理のない範囲の合理的配慮を求める大切さがよく分かりました。障害があるから自分だけ特別ということではなく、障害のない人と同じ機会を得るためには、という考えが大事だと思いました。例えば、頭では考えられるのに字が書けなかったり、あるいは紙の字が読めないからテストを受けることができない、ということではなく、解答を書く手段や問題を読む手段をパソコンに変えるなどの工夫をして、障害のない人と同じようテストを解く環境を整える。「ずるをする」のではなく、障害のない人と同じスタートラインに立ってテストなどをするために必要だからこそ求める配慮が合理的配慮なのではないかと僕は思います。もちろん配慮を得る分、僕も出来る限りのことをして、周りの方にはに少し手間かけてしまうかもしれませんが、その分を返せるくらいしっかり勉強して、社会に出て恩返しをしていきたいと思います。  僕は今回の夏のプログラムに参加して、今まではずっと小さな世界にいたんだなと気づかされました。とても貴重な四日間を通して、色々な考え方や今まで知らなかったツールに触れたことで、一気に世界が広がりました。知っている思っていたことにも、もっと深い意味があることもたくさん知ることができました。世の中には僕の知らないもっと大きな世界があると思うので、積極的に自分からチャレンジしていこうと思います。DO-IT Japan に参加できて本当に良かったです。ありがとうございました! ## 保護者より  DO-IT の夏季プログラムに参加させて頂き本当にありがとうございました。全ての関係者の皆様に心よりお礼を申し上げる次第です。昨年の京都で行われた ATAC カンファレンスに参加したことがきっかけでそこで出会った方々がとても印象に残り、DO-IT への参加を強く希望しました。  プログラム初日はかなり緊張していましたが今回の講義や出会いがよほど楽しかったのか、最後の懇親会からの帰り道でも「後一日居たかったなあ」とつぶやいていました。シンポジウムの最後に流れた息子の文章には、「自分で考える楽しさ」とありました。今日まで本当に素直にまっすぐに育ってきてくれたと感謝しています。でも長くて一度しかない人生、もっと自分らしくやりたいことを主張できるようになってほしいと常々考えていました。合理的な配慮を求めるにしても、自分自身をしっかりと把握し何を求めるのかが腹落ちできていなければなりません。責任をもって自己決定することの大切さを学ぶ大きなきっかけとなったのではないでしょうか。様々な障害のある方々と接することができたことも多様性を育むすばらしい経験となりました。DO-IT を経験した「スタートライン」。一つ上のステージが始まりました。次のステージを目指して、駆け抜けてほしいと願っています。 14ページ 加藤 美来 茨城県/高校 2 年 自分に関することを全て自分で決める 私が DO-IT に参加するきっかけとなったのは、過去の参加報告書を読み、今の私にとって必要なことを得ることができるかもしれないと思ったからです。今の私に必要なのは、自分に関することを全て自分で決めることだと思いました。当たり前なことだけど、いつも誰かと一緒にいる私はつい、人に頼ってしまい、相手のいった通りに行動してしまうことがあります。そんな弱い自分を変えたくて、応募させていただきました。  今年の夏、私が DO-IT の中で一番不安だったのは、トイレのことでした。面接のときも、一番不安なことはトイレです!と言ったことを覚えています。自分ではできないので、ヘルパーさんにお願いするのですが、私は体重が重く持ち上がるのだろうかと不安でした。だけど、支援を依頼したヘルパーさんがとても良くしていただいて全く不安ではなくなりました。家族とは違うやり方だったので、こういうやり方もあるのかとビックリしました。  DO-IT では様々な障害を抱えている方々と出会い、いろいろなことを知りました。自分では考えていなかったところで苦労されている方や、逆に私が心配だなと思っていることが心配ではなかったり。普段学校の友達に言っても、なかなか分かってもらえなかった部分も話すことができて新鮮でした。  DO-IT の 1 日目は、自己紹介から始まり、自分のニーズを相手に伝えるなどをテーマとした講義を受けました。  3 日目の品川にあるマイクロソフト株式会社の見学では、早めにホテルを出たはずが慣れない都会の駅で迷い、集合時間に間に合ったものの、ギリギリになってしまいました。そこで改めていろんなことを逆算して行動しなければならならかったなと思いました。マイクロソフト社では、いろいろなソフトを試し、自分にあったパソコンの使い方を探しました。とても貴重な経験となりました。  今回私は 2 日間ホテルに泊まりました。親に全く頼らないでの外泊は初めてだったので緊張しました。だけど同室だったスカラーさんや、お風呂などを手伝ってくださったチューターさんにとても良くしていただいて充実な時間を過ごすことができました。ただ、大学生のアテンダントさんに朝来てもらうときの時間設定や夜のお風呂介助の時間を決めることが難しく戸惑いました。何時にこれをやるから、いついつに来てもらえば大丈夫だな、と先々に全てを把握し、相手に伝えなければならないんだなと学びました。  この 4 日間で私の考えはぐっと広がった気がします。  私は、大学進学を目指しています。なので、DO-IT のなかで、大学に通われている先輩スカラーさんのお話を聞くことができたのは、とても貴重でした。どのような形で入試を受けたのか、現在どのように大学に通われているのかなどその場で聞くことができたのが、とても良かったです。先輩スカラーさん達はとても輝いていたので、私も再来年後にはそうありたいと強く思いました。  この夏、DO-IT に参加できたことで、今まで漠然としか考えていなかった将来のことを見つめる良いきっかけとなりました。DO-IT から帰ってきて今までの生活に戻ったとき、改めて甘えた生活をしていたんだなと実感しました。何も言わなくても私が望んだように世話をしてくれる家族。そんな生活が当たり前だと思っていた自分。だけど4 日間、親元から離れて過ごすことで、その考えが変わりました。これからは、家族ではない第三 者の方にお手伝いをしてもらいながら生活していくのだと、今年の夏のおかげで気付くことができました。  この 4 日間支えてくださった DO-IT のスタッフのみなさん、大学生のアテンダントのみなさん、ありがとうございました。また参加させてください!これからは大学受験に向けて勉強します!本当にありがとうございました! ##保護者より  以前から是非夏季プログラムに参加してほしいと思っておりました。挑戦するなら今年しかないと本人が意欲を見せたので、応募致しました。合格通知が来て喜んでいたのも束の間、スケジュールが発表されていき本人以上に親の方が浮足立ち、不安が募っておりました。そんな中、スタッフの皆様の一つひとつ解決していきましょうと言う言葉にハッと気付かされました。親に出来る事は何も無かったのです。今回の参加は本人のチャレンジと共に親の覚悟が試されるものでもありました。  8 月 2 日の朝、本人の心は決まっておりました。やる気十分です。駅員さんに到着駅の行き方を説明し、颯爽とホームに降りて行きました。期間中は連絡が無かったので無事に過ごしていることを信じて待っておりました。帰宅後本人の話を聞き、充実した生活を送っていたことは言うまでもありません。15 スカラーの皆さんとの出会いは、かけがえのないものとなった筈です。  最後になりましたが、すべてのスタッフの皆様には本当にお世話になりました。ありがとうございました。後にスカラー OB としてお役に立つべく、より一層の成長を願ってやみません。 15ページ 武石 龍基 栃木県/高校 2 年 常に新しいものを挑戦する  DO-IT Japan。それは自分にとっては全く知らない世界を見ることができた場所でした。プログラムの中で出会った人々が持つ様々な困難。それをどのように解してきたか。どのように合理的配慮を受けていくか。また、障害者としての視点から見る街の施設や道路は、凹凸などのちょっとした地形の違いによって通り辛くなるなど、社会には多くの問題があることを知ることができました。また、私は事故で障害を負うまでは健常者であったので、障害者になってから初めて地元を離れての日々を過ごし、健常者の目から見えるものと障害者の目から見えるものの違いを感じることになりました  今回 DO-IT Japan に参加する際、車椅子で初めて街を長距離移動し、初めて公共交通機関を利用するという経験をすることができました。ホテルではエレベーターのボタンが少し高い位置にあり押しづらく、弱い腕の力では押しづらいボタンがある。道路では歩行者にはなんでもない段差でも車椅子には通れない大きな障壁となる。などなど、社会にはバリアフリーとは名ばかりの施設が溢れているのだと知る一方で、ここ数年で大きく変わったことも聞きました。数年前まで駅の階段には車椅子を運ぶ昇降機がついていないところばかりで、人力で運んでもらわなければ電車に乗れなかったが、今では東京のほとんどの駅がどこのホームにもエレベーターか階段昇降機が付いているそうです。僕が利用した路線には全ていずれかが設置されており、比較的短時間で移動することができました。社会が障害者にとって住みやすい環境に変えられてきている一方で、まだある課題をこれから解決していく必要があることに気づきました。  僕は障害を負ってから毎日、将来について嘆く自分と前向きに進もうとする自分が心の中に混在していました。しかし、プログラムに参加したスカラーたちは、現実をまっすぐ見つめ、自分の障害をカバーする方法をそれぞれ工夫しながらずっと戦ってきた人たちでした。初めて彼らに会ったとき、背中を強く叩かれた気がしました。DO-IT に参加しなければこんなことも無かったはずです。自分が抱える困難を合理的に解決するための配慮を実に的確に納得させやすく周りに求めていた方もいました。僕は、今まで指が動かないからペンを持てない。足が動かないから歩けない。このような説明の仕方をしていたように思います。当たり前のことですが、「何をして欲しいか」が伝わらなければ意味がありません。スカラーたちの出会いによってより前向きに生きる力を貰えました。  僕は、「自立とはなんだろう。」「自分のような身体障害者は自分の力では生活をすることができず介助者が必須であり、その上で自立することはできるのだろうか。自立していると言えるのだろうか。」と疑問を抱き続けてきました。 DO-IT Japan の講義の中でそれは解消されることになりました。「自立とは依存するものが多くそして浅い状態のことを言う。」これはとても衝撃を受けました。自分でも自立することができるのだと理解することができました。  また、常に新しいものを挑戦する、試してみることが大切だという事を教わりました。たとえ今使っているツールが問題なく使いやすいとしても、別のもの試してみるうちに自分により大きな利点があるかもしれない。それによって、今までできなかったことができる可能性が広がるということを、講義によって知ることができました。例えば WindowsPCには、スクリーンキーボードや文章を音声で読み上げる機能などのアクセシビリティが標準で搭載されているなど、すぐ近くにも便利なものがあります。発見する為には慢心することなく常に自分で情報を集めていくことも大事です。これからは、チャレンジ精神を持ち続けていこうと思います。  以上のように、DO-IT Japan では多くの経験と発見があり、とても四日間の出来事であったとは思えないほど充実していました。ここで学んだことを最大限に生かすために自分に心がけるのはもちろんですが、情報を発信し続けて行こうと思います。僕はかつて健常者であったからこそ、障害についてあまりにも知らない人が多いことがわかります。まずは現在通っている高校の先生方や生徒、そして大学、社会に向けて障害について理解を得ていく為に話す。知ってもらう。これが社会を変えていく第一歩だと思います。  DO-IT Japan で再認識できたことは、多くの人に支えてもらうことがとても大切であり、そのことに対する感謝を忘れてはいけないということです。この 4 日間だけでも本当にたくさんの人にいろいろな形で支えていただきました。DO-IT の先生方、事務の方々、チューターの皆さん、アテンダントの皆さん、講義をして下さった皆さん、スカラーの皆さん。そして、DO-IT Japan を紹介して背中を押して下さった高校の先生方にお礼を申し上げます。ありがとうございました。 ## 保護者より  2 年間の入院生活を経て、この春再び高校に復学する事が出来ました。高校の先生方からは、様々なご配慮を戴きやっと勉強し始めた所です。DO-IT に参加し色々な情報を得た後も、大変恵まれた環境にいるのだと感謝致しております。DO-IT の情報を聞いてから応募し参加するまでの本人の積極的さは、受傷前の息子を思い出させるような嬉しいものでした。とはいえ、親と致しましては正直、家に帰ってすぐでしたし、少し不安や心配が先に立ってしまっていました。しかし、DO-IT の案内の方のきめ細かい配慮や心遣いに段々と大丈夫と思えて参りました。DO-IT の期間中、初めて一人で交通機関を利用して夜 8 時過ぎに帰ってきた顔は、こちらの心配をよそに、清々しく、自信と達成感にあふれていて親として何より嬉しいものでした。そして、本当に久しぶりに(面白い !?)駄洒落を聞くことが出来ました。どんな事を学んできたのか?の問いに、「障害とは、…」と、夜遅くまで熱心に話してくれました。  この度の経験は、きっとこの先起こりうる様々な障壁を打破する力となってくれると思います。この様な機会を与えて戴き、息子の「出来る事」に目を向けて見守って下さいまして、本当にありがとうございました。 16ページ 野澤 幸男 山梨県/高校 3 年 見たことがなかった方面から問題に着目する 私は、今回DO-ITの夏季プログラムに参加して、多くのものを得ることができました。  一番大きかったのは、さまざまな障害を持った方々との交流やつながりです。小学校のころは、投じ習っていたピアノの先生が主催するイベントに参加して、月に1回、聴覚障害の方と活動していました。また、中学までは地元の盲学校に在籍していて、ダウン症をはじめとする重複障害の生徒を見てきました。しかし、どちらの場面でも、私は自分のことで精一杯で、自分と異なる障害について、あまり理解しようとしていませんでした。今回夏季プログラムに参加し、さまざまな障害により、自分とはまったく違う悩みを抱えている方々と話し合うことで、今まで見たことがなかった方面から問題に着目することができるようになりました。  たとえば、私は以前まで、パソコンやスマートフォン・タブレット上で利用できるスクリーンリーダー(画面読み上げ)を利用しているのは視覚障害者がほとんどで、それ以外の人はその存在すら知らないのではないかと思っていました。ですので、最近の音声合成エンジンが肉声にこだわりすぎ、全体的な動作が高負荷になっていて困るなどと、友達と愚痴をこぼしあっていました。しかし、今回の夏季プログラムで、書かれた文字を読むことに困難を抱える方々がいて、音声読み上げを工夫して活用していることをはじめて知りました。音声だけを頼りにPCを操作することと、読むことが困難な文字情報を正確に保管すること。これらの点に着目してみると、ユーザの求めている音声の聞き取りやすさや歯切れのよさが変わってくるという事実は、私にとって衝撃的でした。  当然ながら、私は一人の視覚障害者として、日常生活の中で直面する「不便」を知っています。それは、自ら経験して不便さを感じることも、友達や先輩から教えてもらうことも含みますが、今まではどうしても「視覚障害」という世界での話に偏りがちでした。私が普段気づかないことや、不便を感じないで行える作業であっても、障害の種類や程度により、さまざまなものがバリアとなりえることを、夏季プログラムへの参加で学びました。その中には、簡単には解決できない課題も含まれますが、すこしの工夫や周りの理解によってクリアできるものも多いと思います。しかしながら、そのような事実は社会に十分に認知されているとは言えません。だからこそ、自分の障害を把握すること、自分の求めている工夫について、適切な理解を求めることの重要性を感じました。  もう一つは、自分のなかの「考え方の引き出し」を増やす機会を持てたことです。たとえば、夏季プログラムでの講義の中で、サービスに対してお金を支払うガイドヘルパーについて、ボランティアとはどのように違うかという話があり、お互いの都合に合わせた予定の調節やお付き合いなどをする必要が無いことや、サービスを受ける側と仕事をする側と言う立場がはっきりするといった違いが出ました。私は、行ったことがない場所に出かける際に手引きを必要としますが、ガイドヘルパーを頼んだことは一度もありません。周りの親しい人に頼んだり、自分が行ける範囲の場所に待ち合わせ場所を調節してもらったりしていました。それで不便を感じたこともとくにありませんでした。現在は学生である程度時間がありますが、社会人になればそうはいかないかもしれないし、クラスメイトと仕事仲間では人間関係も変わってくるかもしれません。このように、周りの制度や自立という考え方について、より多方面から考えられるようになったと思います。  私は、アクセシビリティのスペシャリストを目指して、日々の学習や研究に励んでいます。発展を続ける支援機器やIT技術を活用して、障害者の生活を便利なものにしていくことが、私の将来の夢です。今回の夏季プログラムにおいては、上記に示したように、異なる障害を持つ方々のニーズや考えを知り、自分自身の引き出しも増やすことができたと感じており、これからの学習や研究の参考になることがたくさんありました。  これから、大学入試、進学、学生生活、就職といったさまざまなことが私を待っています。その中で、不便さを感じたり、自分一人ではどうすればよいのか分からなくなることもあると思います。そんなときは、夏季プログラムで学んだことを思い出したり、繋がることができた仲間たちから知恵を借りたりしながら、自分のやりたいことを実現できる未来を目指していきたいと思います。 ## 保護者より  息子が過去に参加したプロジェクトは全て視覚障害者のための物。ですから、何も言わずともスタッフが付き、様々な配慮がありました。しかし今回は全く違う。親元を離れ寮生活をしている息子は、すべて一人でこなしていかなければなりません。しかし、子供は親が思うほど出来ない事ばかりではなかったようです。障害者でありながら、障害者とひとくくりにされることへの違和感を感じていた息子。今回ばかりは違ったようです。DO-IT 終了後、印象的な息子の言葉が 2 つありました。  1 つ目は「自立すると言う事の意味」について考えが変わったこと。この気づきは大きな力となることでしょう。もう一つは、チュ−タ−の学生さんに対しての気持ち。いままでの息子からは聞けなかったような言葉に、大きな成長を感じました。DO-IT Japan は PC を武器にしていきたい息子にとって、ターゲットは同じ視覚障害者だけではない。見えていても音声を必要としている人が沢山いる言う事を教えていただける、気づきの場でもあったのではないかと感じました。視野を広く持ち、夢に向かって歩んでいってほしいと思います。貴重な経験をさせていただけたことに心から感謝いたします。 17ページ 横山 真由 東京都/高校 3 年 普通のことだよね、と思えるような社会になったらいいな  今回、DO-IT2015 プログラムに参加させて頂き、様々な事を学びました。そして、大きな発見をすることが出来ました。私が DO-IT に応募しようと思ったきっかけは、大学の支援室で働いていらっしゃる方からの紹介でした。その時、私は自分の障害について悩んでいる時期だったので、なんて魅力的で面白そうなプログラムだろうと思ったのを覚えています。  この 4 日間を通して感じた事、思った事が沢山あります。まず 1 つ目は「何かに頼っていいんだ」ということです。この 4 日間、大学生のアテンダントさんなど、皆さんが私達の支援をしてくださいました。今回私は、初めて文字通訳を体験しました。通訳をどの講義の時もして下さりとても助かりました。本当にありがとうございました。この経験から、今まで「聞き取れなかったらそのまま流しとこう」とか「大体のニュアンスで分かるからいいや」と思っていましたが、「こんなことを聞き逃していたんだ」「ここが笑うポイントだったのか!」と分かりとても驚きました。今まで自分は誰かに頼ったりすることが恥ずかしいと思ってしまい出来ませんでした。けれど、出来ないときは助けを求めてもいいんじゃないか ・・・と思うようになりました。この経験をきっかけに、残り少ない高校生活ですが、必ず今の現状を変えようと決心しました。  また、2 つ目は「海外留学」をされた先輩方の講義を聞いた時のことです。日本と海外では違いが沢山あるのだなと思いました。例えば、日本では社会のマイノリティというと、障害のある方が思い浮かぶことが多いかもしれません。しかしアメリカではそうではないそうです。なぜなら、アメリカには色々な人種の方がいたり、色々な言語を使う方がいて、マイノリティというグループは沢山あるので、障害だけをマイノリティと考える傾向が低いからだそうです。また、先輩はアメリカでは「何が出来て何が出来ないか」を聞かれると言っていました。「何は出来ないがどんな配慮があればこういうことが出来るのだ」 ということを伝えるためだそうです。この事を聞き、私はハッとし、日本でも通じることだ!と思いました。私の場合、「難聴」ということだけでは伝わりにくかった自分の「出来る部分」をこのようにして伝えればいいのでは!と思いました。これから実践していきた いと思います!  そして、3 つ目は「障害を感じさせない世の中」ということです。DO-IT プログラムの中では、障害のことについてや、合理的配慮などについて深く学ぶ機会がありました。障害を感じさせない世の中ということに関して、多種多様な意見があると思います。しかし、私はもし今の社会に、障害を持っている人へ何か偏見があったり、差別のようなものが あるなら、そういうことのない世の中にしたいです。例えば、クラスの中に障害をもっている人がいたとしても、皆とは違うよね、とかと思うのではなく、障害のある人がクラスにいたとしても特別な事ではないし普通のことだよね、と思えるような社会になったらいいなと思います。それは慣れと同じなのかと思いますが、時間と共に次第に変わっていくかな、とも思います。このような私の意見は、周りを変えようとしていて、とてもわがままな意見かもしれません。その人が悩んでいたり不便だと感じている点を取り除き、障害を感じさせる要因となるものがなくなったらば、障害を障害と感じることも少なくなるのでは、という事に気付きました。私は、少しでもそういった社会で不便と感じる点を改善していきた いと思います。また、社会へ意識改革を働きかけたいです。そしてどんな人もその人らしく自立心の育つ社会になったらいいなと思います。  そして、4 つ目は、多くの出会いがあった事です。DO-IT プログラムに参加し、沢山の仲間に出会うことができました!中には、今まで知らなかった障害を持った仲間がいたり、障害を持った経緯も皆バラバラでした。そして皆、とても優しく素敵な人達でした!イブニングセッションでは、先生方、スカラーたちとお話しをすることができ、また、ご飯に行く機会もあり色々な体験をしました。スカラーの皆さんと話すのは、最初は緊張でドキドキでしたが、好きな俳優さんやジャニーズ、アルバイトなどの話しなどをし、とても楽しかったです。沢山笑いました。そして美味しい料理に噛みついていました ( 笑 )。また、複数人で話す機会が沢山あり、いつものように聞きとれず、楽しめるだろうか…という不安もありました。しかし、文字通訳をしていただいたり一緒に喋っている皆さんが私が聞き返したりした時に嫌な顔一つせず、すぐにもう一回言ってくれたことがとても嬉しかったです。  この 4 日間は、心から会話が楽しめました!本当に嬉しかったです!普段の会話でも配慮をお願いしよう、ということが掴めました。今回 DO-IT で学び、得たことは書ききれない位あります!以前は「障害がなければ楽しく生きられただろう、こんな人生生きている意味なんてあるのかな?」と、びっくりする位 ( 笑 ) 悲観的に考えていました。しかし今回の経験を通し「出来ないこともあるけれど、出来ることもある。だから出来ることを最大限楽しもう!」と思い始めました。これから自分に何が出来るのか、今回の学びを何に生かせるのかしっかり考えていきたいです。  そして最後に、DO-IT で出会った皆様へ、本当にありがとうございました。皆様のおかげで忘れられない素敵な 4 日間になりました!心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。 ## 保護者より この度は大変お世話になり、ありがとうございました。プログラムに 参加したいと聞いた時は、高 3 の夏だから受験勉強に専念した方がいいのではないかと思い、積極的に賛成は致しませんでした。しかし実際に参加させて頂いて、今はかけがえのない貴重な経験をさせて頂いて本当によかったと思い、皆様に心から感謝しております。多くの方々に出会い、話を伺ったり、自分も表現することによって、生きる自信と喜びと希望を得たようでした。それまでは、「人と何を話したらいいかわからない」とか「将来何をしたいのかわからない」と言っていましたが、最終日の懇親会で目を輝かせて自分からスカラーの方々や先輩方と話している様子を見て、大変頼もしく、嬉しく思いました。将来についても二転三転しながら、少し前向きに考えられるようになったようです。プログラム中は「楽しいけど、頭が爆発するくらいに忙しくて大変」と言っていたのに、終わってからは「みんなに会えなくて寂しい」とか「ずっと続けばいいのに」としばらく言っておりました。よっぽど刺激的だったのでしょうね。これからもどうぞよろしくお願いいたします。 18ページ 牧野 友季 宮崎県/高校 4 年 自閉症スペクトラム。その診断は、私の背中に大きくのしかかりました。言葉に対して独特な感覚を持つだけでなく、聴覚過敏、カタカナの読み書き困難、小さい文字の識別ができないなど、学習面で困ることも多くありました。努力が足りないからできないと思っていた私にとって、診断は少しだけ心を軽くしてくれましたが、皆が当たり前にできることができない自分に失望し、劣等感を抱き、涙を流す日々は変わりませんでした。全日制高校を休学し、高卒認定試験を受けて大学に進学するも退学。ようやく見つけた再スタートの場所は、夜間定時制の高校でした。私に合わせた指導、配慮を快くしてくださる素敵な学校です。しかし、いつでもどこでも、支援や配慮をしてくれるわけではありません。大学進学に対する不安は募っていきました。そんな時、大学の支援の話を聞くために足を運んだオープンキャンパスで出会ったのが、このDO-ITです。自分の殻に閉じこもり、独りよがりになりがちな自分の視野を広げ、自分の足で歩く力を得たい。その思いで、DO-ITへの参加を決めました。  私は、夏季プログラムで、改めて自分の困難を知ると同時に、大きな喜びを感じることができました。  一つ目は、テクノロジーが私の苦手を軽くしてくれるということです。聴覚過敏があり、たくさんの音がする場所で必要な音を聞き分けるのが苦手な私は、ノイズキャンセリングヘッドホンを使うことで、疲れが軽減されることを知りました。聴覚障害者のための文字通訳は、視覚優位で耳からの情報を取得することが難しい私にとって大きな助けとなりました。OneNoteは、自宅でノートの代わりとして使っています。不器用で印刷物の切り張りが上手くできず、写し間違いや書き間違いが多くて何度も消しては書くということするために、うまくノートがとれなかったのですが、OneNoteはその問題を解決してくれました。すぐに拡大ができることで、ノートの読み間違いも減り、効率よく勉強できるようになったと感じています。今まで勉強していると、内容以外のところで躓き、苛立っていました。しかし、OneNoteを活用することで苛立ちがなくなり、より勉強が楽しいと思えるようになりました。また、私は、考えを整理しまとめることが苦手なので、マインドマップやGTDは大きな効果がありました。物事に優先順位がつけられるようになり、生活の中で困ることが少なくなったように感じます。苦手なことをすべて自分の力で解決しなければならないわけではない。その力も大切ではあるけれど、テクノロジーを活用することも大切だということがわかりました。  二つ目は、素敵な仲間との出会いが、私を強くしてくれたことです。私は、プログラムに参加するまで、もう何年もの間マスクをつけて生活していました。それは自信が持てない自分を隠すためのものでした。しかし、プログラムにはマスクを外して参加すると決めていました。自信が持てない自分を変えられるかもしれない。そんな期待があったのかもしれません。プログラム初日、緊張する私に、何人もの人が話しかけてくれました。次第に打ち解け、いつもは自分から話しかけることができない私が、自分から話しかけることもできるようになりました。また、人前で意見を述べることもためらいなくできるようになりました。自ら手を挙げて発言することはできませんでしたが、意見を求められたときにしっかりと自分の考えを伝えられたことは大きな成長だと思います。また、さまざまな障害のある人と関わることが少ない私にとって、仲間との出会いは新鮮で、とても刺激的でした。お互いの困難を分かり合えたこと。自分からわからないことを質問できたこと。苦手でできないことを自分から助けを求め、できるに変えたこと。私を助けてくれる人がいて、私も人の役に立てることがあると知ったこと。どれもが、私にとって大きな喜びでした。15スカラーのみんな、先輩スカラーのみなさん、たくさんのスタッフの方々に本当に感謝しています。プログラム中、私が私らしくいられたのは、周囲の方々のおかげです。  周囲と比べ、劣等感ばかり抱いていた私に。障害を受け入れてもらえず、友だちなどできないと諦めていた私に。自分を押し殺し、周囲と合わせることに必死になり、疲れきっていた私に。努力が足りないから皆と同じように進めないのだと、泣いてばかりいた私に。今なら言えることがあります。  「私は一人じゃないよ。」  支えてくれる人がたくさんいて、共に励まし合う仲間がいる。自分で考え、行動を起こすことが、前に進む力になる。そんな、当たり前だけど、つい忘れてしまいがちなことを、DO-ITは教えてくれた気がします。  笑顔の私。DO-ITで、私は大好きな私に出会えました。仲間との出会いやプログラムでの発見が、今まで流してきたたくさんの涙を笑顔に変えてくれたのです。発達障害は私の翼。ここから、一歩を踏み出し、大きく羽ばたいていきます。 ## 保護者より  「DO-IT ではマスクをせずに過ごす!」 東京に向かう前にそう宣言しました。私は変わる!という決意表明でした。自らの特性から友人関係に躓き高校を中退。東京の大学に進んだものの程なく宮崎に帰ってきました。自信を失くした彼女は外出時にはマスクで表情を隠して過ごしてきました。それでも自らの発達障害を受け入れ、一念発起してコミュニケーションの術を少しでも身につけるためにと自ら決めて定時制夜間高校に進学しました。学校の先生方の暖かい見守りのおかげもあり、ようやく自分の道を探して前を向き始めた時に見つけたのがこの DO?IT Japan でした。何度も何度も応募書類を書き直し、太宰府天満宮に祈願に出掛けてまで手に入れた DO?IT の参加資格。念願の場所で過ごした時間は、彼女の意識に大きな変革をもたらしました。宣言通りに素顔で過ごした彼女は、DO?IT から帰ると学校に行き先生方にノイズキャンセリングヘッドホンの使用を認めてもらうことや進路変更に伴う支援を自らお願いしました。その時、終始笑顔で力強く先生方に話す彼女を見て親ながら驚きました。発達障害を自らの個性と受け入れ、個性を「翼」に自らの道を進もう。そんな希望と勇気を与えてくださったスタッフ、スカラーの皆様に心から感謝申し上げます。そして、同じように障害のある人々に役立つ人になりたいという彼女の夢の後押しをすることで、親である私達もご恩返ししたいと願っています。 19ページ 本名 貴喜 東京都/高卒生 小学三年生で広汎性発達障害と書字障害と診断された。最初は自分でもそのことがよく理解できなかったが、すぐに、周りの人との違いなどが理解できた。そうして、学習面や人間関係で理解できたことをまとめていくと「自分は社会で生きていくには不利な存在であるらしい」ということが判明した。それでも気にしないうちは何とかなったがいつまでもそうしてる訳にはいかず「どう生きるか」を考えなければならなくなった。かと言ってどうすればいいのか皆目見当がつかない。そこで学校の先生に相談すると、DO-ITと近藤先生を教えてくれて、プログラムに応募し、参加するに至った。 DO-ITでの四日間は、視野が広がり視点が増えた刺激的な四日間だった。 初日のディスカッションで、小さな依存先を多数作ることが自立につながるという講義だった。これには面を食らった。人間関係に悩む身にしては一瞬困りかけたが、逆に言えば多数のつながりが必要であり深い密接な関係は必ずしも作る必要はないということだろう。と解釈した。そう思うと気が楽になった。 二日目のセッションでは、見た目では障害者と分からないと苦労するという事実を再認識させられた。傍から見ると私は「普通の人」である。では、中身はどうかというと「普通」ではない。そこの説明が難しい。なにより確実な証拠というものが用意できない。身体障害なら明確な証拠が存在する可能性があるが、LDだと字が書けないと伝えても「証拠は?」と言われたら非常に困る。今までに書いたノートなどを見せても相手が書字障害などの知識がある人なら伝えられるかもしれないが、知らなかったり聞く耳を持たない人間だったら「ふざけて書いてる」と言われたらそこで終わってしまう。反論しても聞いてもらえなければそこで終わりだ(こういう人間は存在する)。要するに確実に説得できる確証がない以上常に差別される可能性をはらんでいる。だから自己のニーズを正確に伝える必要があることを学んだ。理解されなくとも存在を認めてもらうことが大事なのだろう。 また、同じ日に海外での状況についてのセッションがあった。それによるとどうも日本はアメリカやヨーロッパに比べて遅れているらしい。諸外国では障害があろうとも健常者と同じように教育を受けるのは当然のことという認識が強いそうだ。そしてその意識は社会システムだけでなく個人にまで浸透していると聞いたとき非常に羨ましく思えた。生きづらければ逃げ出して行きやすいところへ行くというのもひとつの手段だと知った。障害者はいざという時のために外国語を学んでおくといいのかもしれない。それだけでも可能性は広がるのだろう。 マイクロソフト社では、様々な支援機器の使い方を教わった。思考の整理を手助けしてくれるソフトをいじったとき、頭の中の情報を外部に出すということは初めて行った。それはとても気持ちいい体験であった。さらに、数式を楽に打ち込めるソフトを知ったとき「あっもう無理に手書きすることないな」と悟った。それくらいの衝撃があった。代用出来るなら代用すればいいこの単純な答えがわからなかったのは周りに合わせすぎたからだろう。これからはPCを使っていけば、書字障害は克服したも同然と言えるだろう。 全体を通して学んだことは、この社会で生きていくのは大変困難だということである。テクノロジーを使い障害を克服したところで社会が認めなければ何の意味もないことになってしまう。どうも最近障害者の差別を禁じる法律が出来たらしいが、裏を返せば法を作らなくては差別がなくならなかったということでもある。いくら法律を作ったとしても縛り付けれるのはシステムであり人の意識が変わるわけではない。まだまだ生き辛い世の中だと痛感した。社会は「いろんな人」「多様性」などと口を揃えて言っているが本当にそんな気があるのか疑問でならない。社会を変えるのが一番かもしれないが個人ではどうにもできない気がする。システムと個人では往々にして個人が負ける。そう考えるとDO-ITで学び得たことは個人的には大きな進歩だとは思うが社会的に見たらそんなに大きく変化があったのかは疑問だった。でもまあなんとかなるだろう。 個人的にこれからどうなりたいか今は考えていない、そのうち見つかるだろう。ただうまいこと生きていこうとは思う。DO-ITのプログラムに参加して良かったとは思う、ただ、絶対にそうかとは言い切れない、これから先の未来で「あの時DO-ITに参加しといて良かった」と思える日が来ることを待ちたいと思う。そのために今少しずつ行動していくことにする。 ## 保護者より 小学校入学後に発達障害・書字 障害と診断され、当時まだ障がいの認知度も低く配慮を受けることなく、また中学校では書字障害を努力不足と理解され、加えてコミュニケーションが苦手で不登校の時期があり進学先は就労に向けての教育を促されまた。それに反して、息子の「学びたい」意志は強く通信制高校へ進学しました。そして大学受験まで半年となった昨年、初めて DO-IT の存在を知り、助言をいただきました。そして入試での「合理的配慮」の難しさを痛感しました。今まで「諦めること」が選択の一つで過ごしてきましたが、今回だけは「諦めたくない」と学びたい気持ちと現実に悩んでいたところ、今期のスカラー決定通知をいただき再び希望を持つことができました。  DO-IT の参加により各専門分野の先生方・企業の方の講義やスカラーの皆さん・支援スタッフの方々との交流は、息子自身の視野を大きく広げ、将来・生き方などを深く考える機会となりました。そして、今まで以上に「学びたい」気持ちが高まり、諦めることなく目標を明確にすることができました。支援の速度より子どもの成長が早い日本ですが、先端で活動されている DO-IT に参加させていただき心からの感謝とともに今後もよろしくお願いいたします。そして息子自身「変わるのを待つ」のではなく「変える」一員になれればと思っております。 20ページ 八巻 真哉 宮城県/高卒生 15年前、私は国立大医学部2年生、仲間と共に将来の夢を語り会うのが楽しかった。病院実習で疲れていても、医療と言う道を進む喜びと責任感に満たされていた。そんな時だった.血液学実習の時に、私だけ白血球が見つけられなかった。検査の結果、自らが光を失っていく運命と知り、仲間と同じ道を進む事は出来なかった。 DO-ITとの初めての出会いは、2014年公開シンポジウムである。自己実現のための技術、自立を支える自己決定、そして共生社会が生み出す新しい価値を感じた。その時思った、DO-ITのスカラーとして、もう一度挑戦したいと。挑戦、それは国立大医学部再入学である。視覚障害者では誰も成し遂げたことがない目標だが、自分のためだけでなく社会のために挑戦する価値があると思った。 仲間、技術、自立をキーワードにプログラムを振り返ってみたい。 1、仲間〜共生社会の意義〜 プログラム期間中は、異なる障害や病気のスカラーだけでなく、研究分野が異なる先生、学部も異なる大学生、第一線で活躍されている先輩が迎えてくださった。まさに、DO-ITが掲げる多様性を示していた。そして、私は以下のようなことに気付いた。それは、数日間ではあるが、小さな共生社会を作り障害や病気と共に生きているものが社会の中で生きていく価値を気づかせたいのではないかと感じた。私たちスカラーは、自らの病気について理解を深めるだけでなく、自分自身のニーズを的確に伝え配慮を求める力、セルフアドボカシーと言う自分自身の意思を表明する勇気など様々な教示がされた。それらの効果は、すぐに生かされた。グループディスカッションでは、自らの病気だけではなくニーズや自分自身に必要な配慮を周囲に伝えることができるので、自分自身が考えていることを明確化できた。一方で、仲間のスカラーをより深く理解でき、さらには障害の裏に隠れている本来持っている力を感じた。もしや、最近よく耳にする合理的配慮とは、その人が本来持っている力を引き出す配慮だから必要なんだと。そして、身体的欠陥が障害なのではなく、社会の枠組みが障害を作っていると感じさせられた。プログラムが過ぎていく過程で、互いに配慮していくことを学び、みんなで工夫し、スカラーが本来持っている力が見えてきたのだ。私は、障害や病気の種類も違う仲間との時間が、楽しくて仕方なかった。自分自身が、視覚障害者だと言うことを忘れた時間もあった。このような素敵な喜びを与えてくれたのは、スカラーだけでなく、DO-ITに関わっていただいた皆さんで作った、共生社会のおかげかもしれない。 2、技術〜沢山の思いが詰まったテクノロジー〜 私は技術を単なる道具や生活を便利にするものだとは思わない。むしろ、開発者がなぜ生み出そうとしたのか、どんな苦労があったのか、そして残された課題まで感じたいと思う。さらに、テクノロジーは人生までも変えてしまう力があるからこそ、一方的に支配されてはいけないと感じている。DO-ITでは、視覚に障害があっても学習を進め、大学受験まで戦っていく技術を学んだ。さらには、教科書をテキストデータ化させ、パソコンで音声を読み上げさせて学習する環境までも紹介していただいた。テクノロジーが、私をワクワクさせ目標を明確化させてくれた瞬間だった。DO-ITに紹介していただいたアプリケーション、ご厚意で提供いただいた様々なツールにこめられた人の思いを胸に頑張りたいと思う。また、プログラムが終わった後も、無料のパソコン教室に通い、先端研の先生並みにパソコンを使えるようになりたいと奮闘中である。 3、自立〜日常生活がしっかりとできていなければ大きなことなんてできない〜 今年のDO-ITは、明らかに違う。技術のウェイトより自立が重視されてると感じた。日常生活の中まで入っていかなければ、DO-ITはさらなる進化ができないというメッセージをキャッチした。先端研や企業訪問をしている時だけでなく、朝起きてから寝るまで全てを見直しなさいと言うミッションが含まれていたに違いない。私は思った、特定の人だけに頼らず、広く浅く配慮を求め、日常生活のリズムを整えなければ技術なんて活かせないと。プログラム期間中は、ホテル暮らしだったが、掃除は勿論、部屋に物干しの紐を張り、お風呂の残り湯で使い洗濯し、スーパーに買い物に行き、徹底的に母が普段行っている事を実践した。自己満足かもしれないが、家事を終えて先端研に行くと清々しい気持ちになり、通学が楽しくなった。仲間や先生と挨拶を交わし、キャンパスに入って行く事は絶対大学に入ってやるという気持ちにさせてくれた。 結びに、自らに3つの課題を掲げたい。技術を学ぶだけでなく、更に工夫し創造する力。仲間と共に問題を考え、目標に向き合う持続力。そして自分を見失いそうになった時に原点回帰出来る力。 〜最後に〜 私は、両親に学位授与式を見せてあげる事は出来なかった。どんなにか、私を健康に産んであげられなかったか、責めただろう。進学し、卒業式に招待し、真に自立していく姿を見せてあげたい。そして、DO-ITで出会った仲間だけではなく、社会の全ての人と手を取り合って、全ての人が自分らしく誇らしく生きていける社会を創っていきたい。スカラー、先生、大学生の先輩、そしてシンポジウムに参加して頂いた皆様、本当にありがとうございました。出会いは宝です。 ## 保護者より 2015 年夏期プログラムに参加させて頂きました八巻真哉の保護者です。お世話になり有難うございました。プログラムのなかで、技術や多くの機会に触れることや、日常の生活のこと、自分で計画を立てて行動していかなければならないことなど自立していく自信につながったことでしょう。息子は目の難病をかかえております。この先どうなるか不安を抱えながらも、諦めない気持ちは親子でもち続けてきました。マイクロソフト社でのパソコンへのテクノロジーの導入によって、見えなくてもパソコンが体の一部として活用していけると話してくれました。技術をみにつけることで、力を引き出す武器になれ、病気になる前の息子の姿が見えた気がしました。プログラムが終了して挑戦していく気持ちや、やりたい事を叶える為に突き進んでいく力が強まった様でした。DO-IT スタッフ関係者の皆様、御指導感謝致します。これからも宜しくお願いします。 21ページ 大槻 泰士 東京都/大学 1 年 自分の学びたいことから選んだ大学 DO-IT Japan2015に参加させていただきありがとうございます。 大学で授業を受けるときノートに鉛筆などで書いてメモをとっていたのですが、DO-ITではパソコンでメモをとるやり方や、録音をしながら受けるやり方などをみんなで学びとてもためになりました。 自分がディスレクシアだと知る前は、自分の苦手な読み書きから逃げてきて、読み書き出来なくても出来ることがあると思っていました。なので、自分は社会に出たら自分の苦手なことはせずに、得意なことや好きなことだけをやっていけばいいと思っていました。しかし、今の社会は読み書きが出来なくてはやはりなかなか過ごしにくいです。塾講師のバイトをやっているのですが、報告書を手書きで書かなくてはいけなかったり、生徒の名前や学校の名前を覚えられなかったりと苦労しています。もう新しくバイトを変えようと思っています。目に見えない障害でもあるため、自分の障害について説明しても完璧に理解してくれないことが多いと感じていました。DO-ITではできないことを言うのではなく、パソコンを使っていることや、パソコンを使えばできることを提示すると合理的な配慮を受けやすくなると学びました。もし自分が配慮する側だとしたら、自分もそういった提示をしてくれた方がやりやすいと思いました。 自分がディスレクシアであると分かってから色々と自分のことを知り、色々と思い当たることがたくさんありました。小学生のときの音読では読み間違えをよくして、みんなに笑われていました。このような話をDO-ITでディスレクシアの人と話すと同じような苦労をしていて、話が進みました。他の障害を持った人とも話をして、それぞれに困ったことが違うことを知りました。そうやって話していくうちに名前をなかなか覚えられない自分が、あだ名ですが名前を覚えていきました。とても充実した時間を過ごせとても楽しかったです。 印刷物障害と文字・文章の講義で、国立図書館で印刷物のものを読み上げ可能なものにすることもできることを初めて知りました。今まで読むのが苦手で本を読むことから避けていたので、もし本が読み上げ可能になったらたくさん本を読みたいと思いました。 合理的な配慮や支援を受ければ今まで苦手で避けてきたことも出来るようになるとDO-ITに参加してさらに強く思いました。 しかし、DO-ITに参加してみんなと話をしていくと欲しい配慮ややって欲しい支援をやってくれないという話を聞きました。自分は、大学で学びやすくなるように様々な支援をしてくれる大学に通っています。でも、まだ十分な配慮を受けているとは思ってません。 ディスレクシアを理解してくれている大学だから選んだわけでなく、自分の学びたいことから選んだ大学です。今回のDO-ITに参加した人たちや大学受験を控えている障害を持った他の高校生にも、自分の学びたいことを優先して大学を選んで欲しいと思いました。そのために、DO-ITで活動して社会での障害者のイメージを変えていき合理的配慮を受けやすくし過ごしやすい環境を少しでも作っていきたいと思います。これからもよろしくお願いします。 ## 保護者より  息子がディスレクシアかもしれないと気付いたのは大学受験を控えた高校 3 年の夏でした。それまで読み書きが苦手なことは、努力不足かやり方が合っていないからだと思っていた私たちにとって、まずはディスレクシアとは何かを知ることがスタートでした。そしてその第 1 歩が DO-IT の公開シンポジウムに参加したことでした。  その 2 年後に、この DO-IT にスカラーとして参加することが出来たことにご縁を感じ、また、様々な経験をさせていただいたことに深く感謝致しております。  自分の持っている力を発揮する為に足りない力をどのように補っていくのか、また、様々なプログラムの中でお世話になった先生方や同じ時を過ごしたスカラーの方との出会いと、多くの学びを得た息子の姿に、もう親の出る幕はないと実感しました。これからも自分の頭で考え、行動し、「自分には何ができるか?」と問い続けて欲しいと思います。 22ページ 小暮 理佳 大阪府/大学 1 年 この経験を心に留めておけば大丈夫 私はかつて中2の時に、半日だけDO-ITに参加したことがあった。それから忙しくてなかなか参加できずにいて、大学生初めての夏休み、何か大きなチャレンジがしたいと思い、DO-ITにスカラーとして参加した。  この夏季プログラムに参加するにあたって、私には2つの目的があった。1つ目は親元を離れて生活してみることである。私は学校の修学旅行以外でそのような体験をしたことがなかった。ましてや東京のような大都会で電車の乗り方もわからず、人も多い中で果たしてやっていけるのだろうかととても不安であった。当初品川駅からホテルまで一人で行く予定だったが、母の「ついていこうか?」という言葉に「ダメだ、自分、これは意味のないことだし、きっと怒られるぞ・・・」と思いながらも不安だったため、つい甘んじてしまい母とホテルへ行った。案の定スタッフの2人に怒られた。その時私は「明日から頑張ろう」と思った。そう思うしかなかった。しかし2日、3日と、道に迷ったり、歩きスマホの人にぶつかりそうになったりと色々経験していくうちに、少しずつ自分の中に”自信”がふつふつと湧いてきて、最終的には不安など一つもなくなっていた。 今回このように経験してみてわかったことは、慣れれば大丈夫ということである。この先初めての一人暮らし、就職においても最初は不安でいっぱいだろうが、この経験を心に留めておけば大丈夫だろうと思った。  2つ目は、就職・一人暮らしについていろいろな人に話を聞いてみることである。私の中で大学進学まではなんとなくイメージもできていたし、モデルとなる人も身近にいたためあまり困らなかったが、就職・一人暮らしに関しては相談する人もいなかったし、モデルとなるような人もいなかった。しかしDO-ITの先輩スカラーには、たくさん一人暮らしをしている人がいて、住んでいる地域の制度をうまく利用していたり、さらに一般企業に就職したりしている人もいた。そしてみんなキラキラと輝いていて楽しそうに話してくれる姿を見て私も「やってみたい!ていうか、したい!」と思った。夢を実現するにはまだまだ課題が沢山あるし、いろいろな場面で戦わなくてはならないことがあるかもしれないが、いつでも相談できる、背中を押してくれる仲間たちがいると思えるだけで心強いなと思った。  私がDO-ITで印象に残った話は、熊谷先生の「自立とは」という話である。この話を聞くまで私は、自立とは依存の反対語で、自立をするには依存からなるべく断ち切ることだと思っていた。しかし、熊谷先生は「自立とは依存先を増やすこと」ということをおっしゃっていて、「なるほど!」と率直に思った。 私は普段ヘルパーさんを使って学校生活を送っているが、やはり気の合うヘルパーさんに依存しがちである。しかしそれはとても危険なことで、もし依存先が断ち切られてしまった場合、それは私にとって死活問題であるということだ。だから日頃から依存先を増やしておいて何かあった時の”選択肢を増やすこと”が重要であると思った。依存先を増やすということはたくさんの人達と関わるということと同時にたくさんの人に自分のニーズを伝えていくことが必要である。今回の夏季プログラムでは初対面の人に自分のニーズをうまく相手に伝わるように説明するいい機会になったと思う。  今回の夏季プログラムで、私は様々な人と出会った。まずいろいろな障害を抱えた人たち。障害の種類・程度はバラバラだが、皆が抱えているニーズが共通していたりすると、面白いなと思うと同時に「一人じゃないんだ」と思えてきて、とても心強く感じた。さらに普段接したことのない、視覚障害・聴覚障害・感覚過敏の人の生活を知ることができて、とても勉強になった。普段学校の友達に自分の障害のことを話すことは相手の反応がどう来るか怖くてなかなかできないが、DO-ITではみんな受け入れてくれるし、向こうも自分の障害について話してくれるから、ありのままの自分を出せたような気がした。他にスタッフの人達、アテンダントさんたちなど向こうからは絶対手を差し伸べてくれない(これがDO-IT!!)が、自分からニーズを伝えたり、相談したりすると必ず手を差し伸べてくれたからとても心強かった。  最後に、このプログラムに参加して、新たに私の依存先が増えたと思う。DO-ITはこの夏季プログラムで終わりではない。これから先もみんなと繋がっていられるし、会うこともできる。この先就職・一人暮らしといろいろな場面で大きな壁にぶち当たるかもしれない。でも私にはDO-ITという強力な仲間がいるということを胸に戦っていきたいと思う。  プログラム中私を支えてくださった皆さん、本当にありがとうございました!!また会いましょう^^来年はチューターとして参加したいです! ## 保護者より 待ち合わせ場所である、品川駅に到着した私たち親子と介助ボランティアさん、「これからどうする?とりあえず、荷物もあるからホテルまで行きましょうか。」これが、後に 3人ともスタッフから怒られる羽目となってしまった。そんな気まずい雰囲気から DO-IT は始まった。  参加してからの大きな変化は、次の 2 点である。@障害を持つ当事者のモデルを見つけた。大学を卒業したら就職する。漠然と描いていた夢が、企業で働いている先輩スカラーから直接、話を聞いて夢が目標へと変わった。A今回の経験をどのように自分の学びのフィールドで活かせるのか。なぜ障害があると学校教育から排除されてしまうことがあるのか、その文化的背景について当事者として明らかにしたいと考えるようになった。小さな変化としては、経済的に余裕がなければ DO-IT に参加できないのではないのか、といった点にも気が付いたようだ。DO-ITではスカラーたちの様々な障害を知り、スタッフを含め自分とは全く違う意見を持つ人、近い意見を持つ人など本当に様々な人との交流で、人そのものの多様性を知ることが出来ました。もちろん、失敗も沢山させてくれたことにも親子で感謝しています。ありがとうございました。 23ページ 河原 郁世 北海道/大学院 2 年 障害を抱えていても「高校や大学に行きたい」ということは、「将来、自分がどのようにありたいのか?」を考えることにもつながる。しかし、学校や社会の現実に目を向けると、高校や大学の受け入れ態勢はまだ実験段階であり、自らが声を上げて、障害の種類や程度に応じた学習支援や試験環境の改善を求めたとしても、受け入れ態勢が整うまでに膨大な時間を要する場合が多い。そのため、学校への入学や進学を延期したり、気付けば配慮を受けずに学校生活を過ごすことも珍しくはない。この状況は、社会人になっても延々と続く問題であり、限られた時間を有効活用するためには、今ある常識を覆していく必要がある。 DO-ITの4日間のプログラムでは、合理的配慮や自立支援に向けた学校や社会の取り組み、IT機器の活用方法などを学ぶことができた。しかし、その主たる関心は「高等教育機関への入学を目指す」というものが多かったように思う。自分の今後の人生を具体的に考えれば、学校(高校や大学)は1つの通過点にすぎず、卒業後、最終的に一人の人間(大人)として親元を離れ、何で生計を立てて生きていくのかを真剣に考えることができなければ、本当の意味での自立は困難なものになってしまう。私達は社会に出た時に物理的な壁以外に、挑戦してみなければわからない目に見えない壁に直面する。様々な障壁を乗り越えるために、「将来、自分がどのようにありたいのか」また「学校や社会に配慮を求めるためにはどうすべきか」を考えるディスカッションがあまりにも少なかったことは非常に残念であり、改善の余地があると感じた。 私は、社会人を10年以上経験した後、研究者を目指そうと思い、大学院に進学した。大学院入学後にDyslexia(読字障害)という見えない障害を抱えていることがわかったが、そんなことはお構いなしに寝る間も惜しんで研究を進めていた。しかし、本格的に研究に取り組もうとした矢先、低酸素脳症を患い、後遺症を抱え、思わぬ障害を受傷してしまった。病院で指導教授と家族が面談することになり、その際に「研究者は無理」と言われ、「今後の生活について家族で考えるように」という話がなされたという。面談後の母はかなり動揺しており、私の顔を見ながら涙を流していた。当時、席を外していた私は、後になって話の内容を知り、あまりのショックに何度も良からぬことを考えたが、私の命を懸命に救って下さった命の恩人が、精神面だけでなく、論文に必要な知識を惜しみなく注いで下さり、ようやく目標が定まった。当初の目標であった論文を書くことが一つ楽しみとなっている。 突然の病から2年が経過したが、現実問題に目を向けると、論文執筆に必要な能(脳)力や集中力が著しく減退していることに何度も気付かされる。出来ることよりも出来ないことの方に目がいきがちになり、ポジティブシンキングができずにいると、命の恩人が一喝を入れて下さり、絶妙なタイミングでフォローして下さる。「将来、自分がどうありたいのか」を今まさに学んでいる過程であるが、こんな状況下にあっても、命の恩人のような研究者になりたいという思いが一段と強くなった。 この夢を実現するために、私は働いて所得を得て、親や社会から自立するという重大な局面に立たされている。そこで、一般企業が障害を抱えている人に対して、どの様な態度をとるのか。また、障害や病気を抱えている人を企業側は受け入れる体制にあるのかどうかを検証してみたくなった。まずはじめに、私は障害を「あえて隠して」企業面接に行った。すると、即採用となったが、入社後、事情を説明すると、企業側が退社を促すようになった。良き理解を示していただけるよう、懇願したものの、企業側の受け入れ態勢が中々整わず、最初の企業は退社することになった。次に、企業側に自身の障害について正直に打ち明けると、面白いほど面談時点で断られる。酷い場合は、「障害者や病気持ちの人間は使い物にならない」と言い放つ企業まであった。 これらの経験で実感させられたことは、学校であれ職場であれ、生半可な気持ちでは夢も自立も実現しないということだった。ましてや、受け身では中々進展しない。門を叩き続けることが必要だ。どのような環境を望んでいるのか、明確な意思表示が必要となる。何故学びたいのか。どんな大人になりたいのか。また、なぜ働きたいのか。どのような支援や援助が必要なのかを他者に具体的に説明していかなければならない。10回あたってみて、10回とも断られることは日常茶飯事であり、日本社会が障害や病気を抱える者を受け入れる体制にないことに甚だ憤りさえ感じる。 「諦めも肝心」という言葉があるが、それでは夢や自立への道は完全に絶たれてしまう。「夢を実現して生きたい」、「本当の意味で自立して生きたい」という強い気持ちを持って声をあげ、社会を変えていくための糧が必要だ。偏見に満ちた社会を変える希望への道筋として、DO-ITの今後の活動が、重要な役割を担うことを願ってやまない。 ## 保護者より  個性を生かす子育てがしたいと願っていた私にとって、娘が興味深い感性を持ち、のびのび努力を惜しまない子として育ってくれたことは嬉しいことです。推薦入学できた高校でも、呼び出しが掛かるほど数学だけ出来が悪くとも「完璧な人間なんていないのだから」と異質感を持つことさえありませんでした。大学院生になり、ディスレクシアであることを調べてきた娘には、自らの手で「障害」の烙印を押す必要はなかったのではと不満を覚えました。ところが、長年に亘るこの親の無知が娘にとっては幸いにも働いたそうです。そんな矢先、ヒートショックから低酸素脳症による高次脳機能障害となり、将来を模索する現在に至っています。「生きていてくれてありがとう」との思いと、「今後一人で生きていけるのかしら」という不安の中、今回のスカラーに選んでいただけた特権に心より感謝しています。参加できた一般シンポジウムは、私にとってこれまでにない学びの場となりました。DO-IT スカラー・LD・URAWSS・合理的配慮など今まで耳にしたこともない専門用語?の渦の中で、多方面に援助を必要とされる方々の現状に驚きを禁じ得ませんでした。理解できたことは、一人の声は小さくても諦めないでいる限りやがて、大きな声や力となり、弾み の速度が速まるに違いないということでした。キラキラ輝いているスカラーの皆さんの頼もしさにもとても励まされました。一日も早く全ての人の嘆息が喜び変わるようにと願っています。自由に学び喜びを持って働くことのできる社会の為に、御尽力いただいている皆様に心より感謝申し上げています。 24ページ 2 ジュニアスカラープログラム 5 年目を迎えたジュニアスカラープログラム/夏季プログラムには、小学生 8 名と高校受験を目指す中学生 12 名が参加しました。そして、今年度は新たに高校入試における ICT 機器活用の壁を打開することを目的とした中学生対象の「アコモデーションコース」が開設されました。24 名のアコモデーションコース受講生が、ICT 機器の習熟度別に「ベーシック」と「アドバンス」の 2 つのコースに分かれ、プログラムに参加しました。 25ページ 2015 年 8 月 3 日 (月) # 11時 エンジョイトーク ようこそ先輩! 2015 年春、キーボード利用の配慮を受けて、高校に進学した 11ジュニアスカラーの金坂律君が登場し、受験までの経緯や、受験当日の様子、現在の高校生活などについて話をしてくれました。近い将来、高校受験を控えているジュニアスカラーたちは、金坂君の話に興味深々。今回のプログラムの中で一番たくさんの質問が出ていました。さぁ、金坂君に続くぞー! # 13時 エンジョイトーク 関連づける達人 歴史上の人物名や年号を覚えるといった単純記憶ができない。そんな困難さを感じているジュニアスカラー。彼らに出されたお題は「バナナ」と「アンティークの椅子」を結びつけること。一見、何の関連もなさそうなことをいろいろな視点から関連づけるということを体験しました。ただ覚えるのではなく関連づけてみることで知識を体系化することができる。覚えなくていい、関連付けてみようという新しい勉強の仕方の提案です。 # 14時15分 配慮なしでテストを受ける 「なんで DO-IT に来てすぐにテストなんだー!なぜ書かなければいけないんだー!」ジュニアスカラーは、様々な声を上げながらも普通の紙と鉛筆のテストに取り組みました。これも、自分の苦手なことを自覚し、翌日の「配慮ありテスト」の効果をみるため!紙と鉛筆を使うごく普通のテストのはずですが、読み書きが苦手なジュニアスカラー達にとっては、とても大変な時間でした。 #15時半 ハイパープレゼンテーション 子どもたちが楽しみにしているハイパープレゼンテーションが、今年も開催されました。今年は 10名の皆さんが発表してくれました。趣味のことや、勉強のこと、学校のことなど、それぞれがテーマを決めて発表しました。今回は発表せず聴衆だった人も、堂々とした発表者の姿に、刺激を受けていたようです。 ## Sponsored by ソフトバンクグループ(株式会社エデュアス、ソフトバンクモバイル株式会社) 音読や書字が苦手な子どもたちが、紙や鉛筆での読み書きの代替手段として使える、使いやすいテクノロジーが必要です。読み書きを補うタブレット端末をご提供いただきました。加えて、夏季プログラム中のスタッフ間の円滑なやり取りに、携帯電話もお貸しいただき ました。また、DO-IT Kidsプログラムとして、保護者向けセミナーにて話題提供をいただきました。 ## Sponsored by フォナック・ジャパン株式会社 ざわついた環 境で 先生の声など、特定の人の声を聞き分けなくてはいけないとき、大きな負担を感じる学 生もいま す。今回、聞こえを助ける FM システムを、お 貸しいた だきました。マイクでひろった先生の声を耳元で聞ける受信機や、教室の後ろでもクリアに聞こえるスピーカーを、スカラーに使わせていただきました。 26ページ 2015 年 8 月 4 日 (火) # 10時ジュニアスカラー【中学生】、アコモデーション・アドバンス →日本マイクロソフト株式会社 品川本社へ # 10時 アコモデーション・ベーシック iPad を魔法のふでばこにしよう ここでは iPad を、読み書きの苦手さを補い、日常の学習場面で活用する方法について学びました。文章を音声読み上げさせる方法、文字を入力する方法、漢字を調べる方法などといった、基本的な使用方法から、少し応用的なマッピングアプリを使って作文を書く方法等、日常生活を便利に使える技術について学びました。 # 10時 ジュニアスカラー(小学生) テクノロジーワークショップ iPad を使って 1 年以上経過する小学生ジュニアスカラーたちですが、iPad 使っている環境は様々です。学校でも家庭でも、iPad を使って順調に勉強できているスカラーもいれば、なかなか学校では思い通りに使えていないスカラーもいます。それぞれがテクノロジーをどのように使っていくのか、実践や発表、議論を通して見直しました。 #13時 ジュニアスカラー(小学生)、アコモデーション・ベーシック 実学ワークショップ! 「アイスクリームって自分で作れるの??」目を輝かせて期待を膨らませます。しかし待っていたのは、とても骨が折れる作業…。しかし、iPad で作り方を検索したり、作業工程を記録したりすると…。紙にメモをするのは大変だけど、iPadを使えば写真機能や録音機能で簡単にメモが取れる!自分で作ったアイスクリームの味は、格別だったようです。そしていつの間にかiPad を使いこなしていました。 # ジュニアスカラー(小学生)、アコモデーション・ベーシック タッチ&リードを使いこなす+ 配慮ありテストを受ける タッチ&リードという iPad アプリを使って、問題文を読むときは音声で読み上げられる、解答は、ワープロで書き込める、手書きをしたいときは拡大をして書ける状態でテストを受けました。読み書きが苦手なジュニアスカラーたちは、昨日の紙と鉛筆で受けたテスト時の様子とは一変。スムーズに問題に取り組み、時間を余らせるジュニアスカラーもいました。 # 2015 年 8 月 5 日 (水) ジュニアスカラー(中学生) 「D 先生プログラム」→スカラープログラムへ(P10) 27ページ 夏季プログラムを終えて #ジュニアスカラー・中学生 ## 壽本 勇魚 宮崎県/中学 1 年 DO-IT では、自分自身を偽る必要がないと改めて感じました。障害を抱えながらも、生活しているDO-IT の仲間たちは、とても優しく、自分にとって居心地がいい時間が過ごせました。私は同年代が苦手です。なぜなら、からかわれたり、避けられたりなど、多くの悲しい思いをしたからです。けれど DO-IT は自分らしく過ごせる場所だと、今回強く感じました。 ## 谷島 昂 東京都/中学 2 年 2 日目、ウィンドウズの最新のパソコンを使わせてもらいました。凄く使いやすくいつもは、疲れて出来ないテストが、普通にできてビックリしました。さすがマイクロソフト社と、お辞儀したい気分になりました。やっぱりパソコンを使うのと使わないのは、全然違うのだなと改めて思う1日になりました。 # ジュニアスカラー・小学生 ## 高橋 和真 茨城県/小学 6 年 iPad などの電子機器の使用や特別な配慮をしてもらうことを(学校に ) 頼むときの説得方法を考えたり、アイスクリーム作りによる実践的な商業 ・ 科学について学ぶ活動もありました。僕は、DO-IT Japan に参加するのは2回目ですが、1 回目のときは疲労のため あまりよく覚えていませんでしたが、今回は適応力がついたためか、十分に活動に集中できました。 ## 甲斐 潤樹 大分県/小学 5 年 僕は DO-IT に参加して学校に行って勉強したくなりました。毎日は無理だけど前みたいに iPad を使って勉強したいです。工夫すれば僕も勉強できると思いました。そして DO-IT は仲間がいて元気がもらえるところと思いました。最近悩んでいたけど少し元気が出ました。 # アコモデーションコース 受講生 ## 浦川 隆之介 神奈川県/中学 1 年 ぼくは、このプログラムに参加し、すごいプラスなことがあった。例えば、テストの時、1日目は全然よめなくてこまってた。2 日目で iPad が加わり、よく読めて分かりやすかったなと思った。だから、中学校のテストでも、iPad を使えば、100 点もとれると思う。 律くんのことがとても気になった。律くんはいろいろな大変さを持っているけど、良い先生と出会い、高校入試を合格した。それだったら、オレも出来るんじゃないのかなと、ふと思った。 ## 茨本 賢蔵 東京都/中学 3 年 DO-IT に参加して気づいたことは、書字などで困っているのは自分だけではないという事と、パソコンを使いこなしている人がいること。それを知って、僕もできる限りパソコンを使いこなさなければならないと思いました。また、会場で自分より苦労している人も いたりして、発達障害にはさまざまな性質を持った人がいて、それぞれの人が自分に合った対応しているので、自分も諦めないで別の方法で進んでいきたいです。 28ページ 3 DO-IT Kids プログラム  DO-IT Kids プログラムは、多様な障害を原因とする学習上の困難のある小学生とその保護者であれば、誰でも登録できるアウトリーチ・プログラムです。テクノロジーを活用した学びの補償について学ぶ機会を届けることを目的としています。  夏季プログラムでは、DO-IT Kids 向けのセミナーを実施しました。また、年間を通じて、学習を支援するテクノロジーの利用方法/配慮事例/相談の機会/イベント参加に関するメールマガジンを定期的に受信することができます。 # 保護者向けセミナー・プログラム ・親子セミナー  「障害のある子どもたちの学びと自立を支えるために」 主に保護者の方を対象とした障害のある子どもの自立を支えることをテーマとしたセミナーを行いました。 佐藤里美 ソフトバンクグループ/株式会社エデュアス事業推進部部長 中邑賢龍 東京大学先端科学技術研究センター/DO-IT Japan 顧問 ・ICT セミナー  「ICT による合理的配慮の様々な事例を知る:DO-IT スカラーの前例から」 DO-IT Japan 事務局より、DO-IT スカラーの過去の教室や受験での配慮の例を紹介しました。 近藤武夫 東京大学先端科学技術研究センター/DO-IT Japan ディレクター 村田美和 東京大学先端科学技術研究センター/DO-IT Japan スタッフ 【配慮の例】 ・読字障害、書字障害のある中高生の代読やキーボード利用での公立高校受験、センター試験受験の例 ・四肢麻痺のある高校生の口述筆記(代筆)やキーボード利用でのセンター試験、大学二次試験受験の例 ・小中学生、高校生、大学生の教室での ICT 製品(タブレット、PC 等)の利用許可の例 ・その他、視覚障害や自閉症スペクトラム、ADHD 等での配慮など 29ページ 4 DO-IT School プログラム 昨年度に引き続き DO-IT School プログラムは 2 つのプログラムで構成され、活動中です。一つは「OAK プログラム」、そしてもう一つは「アクセシブルテスト プログラム」です。いずれも学校に対してテクノロジー製品と、障害のある児童生徒の支援につながるノウハウをセットにして提供します。また、児童生徒・学生の周囲の環境に働きかけます。障害のある児童生徒が適切な環境で学ぶための合理的配慮(環境調整)を行うことができる地域での教育支援体制作りに貢献することを目指しています。 #OAK プログラム DO-IT Japan は、困難に直面した子どもたちがテクノロジーを用いて最大限にその可能性を発揮できるよう、2012 年度より、新たに障害が重度な子どもたちの意思表出や能動的活動を支援するプログラムを開始しました。2014 - 2015 年度は、重度重複障害のある子ども達と彼らを指導する教員を対象とする DO-IT School OAK プログラムを、東京大学先端科学技術研究センターが主体となり、日本マイクロソフト株式会社および株式会社東芝からソフトウェアとハードウェアの提供を受けて実施しました。  その一例として採択された4つの実践研究校の中の1つである香川県立高松養護学校では、自己刺激的な行動が多く実態把握が十分に行えていなかった女子生徒に対して、彼女の意図的な行動を客観的に捉え、コミュニケーション活動へとつなげていくことを目指した実践が行われました。具体的には、体の動きの大きさに合わせて 6 段階(紫から赤、後になるほど動きが大きい)に着色して動きを可視化する OAK の「モーションヒストリー」機能を用いた観察を行い、支援者からの関わりに対する生徒の変化を捉えることを試みました。普段は自己刺激的に体を揺らし続けるために、「モーションヒストリー」の観察の中で彼女は全体的に赤く表示されていましたが、母親や教員が近寄ると、彼女の意識がそちらに向き体の揺れがおさまって、この赤い着色領域が減ることがわかりました。このように、実践では、母親や教員がそばに来ることの他、右側から音を提示することに対するこの生徒の反応の随意性を確認することができました。さらに、この学校では、他の児童・生徒に対しても OAK を活用しながら観察の手順と要点を「観察チェックリスト」としてまとめ、校内の学習会で情報共有を行うなどの広がりも見られています。他校の実践も含め、重度重複障害のある子どもたちへの支援に関する情報発信を引き続き行っていきます。 (図:参加した女子生徒の「モーションヒストリー」の例。人がそばにいない時、あぐらの座位で自己刺激的に体を揺らし続けていたが(上の図)、母親が近づくと、意識が向かい 体の揺れがおさまった(下の図:左から母親、本人)。) # アクセシブルテスト プログラム 問題文や問題を音声で聞いて理解し、口頭で答えることができても、テストになると読み書きに遅れがあるために十分な成績が得られず、自信を無くしてしまったり、学習意欲が低下してしまっている子どもが多くいます。このプロジェクトは、こういった子どもたちの学習を支援する具体的方策を示し、彼らが学習のスタートラインに立てるようにすることを目指しています。  昨年度に引き続き、日本マイクロソフト株式会社がソフトウェア等の提供、株式会社東芝がハードウェア等の提供を行い、合同で実施しております。教員(指導者)の方から指導計画を含めた応募を受け付け、採択させていただいた研究に、最新の Windows 8 タブレットやソフトウェア、タブレットを使って学習やテストをするためのノウハウを提供し、日々の学習やテストで活用する実証研究を実施しています。 ## Sponsored by株式会社東芝 昨年度に引き続き、DO-IT School プログラムに、東芝製のタブレット PC をご提供いただいております。アクセシブルな試験実施のため、教科書や試験を音声で読み上げたり、キーボード入力を行うほか、OAK のソフトウェアを実行する環境として活用させていただいています。 30ページ 5 スカラーのチャレンジ スカラーたちは、夏季プログラムで、自分が求めたいと思っている配慮の内容について考えを深め、さらに、テクノロジーにより配慮が得られた状態では、自分がどれだけ学びをスムーズに進められるのか、実体験を通じて学びました。自宅に帰った後からが、スタート!それぞれのフィールドで様々なチャレンジを続けています。このセクションでは一年間でどのようなことがあったのかを振り返ります。 # ICT の活用、入試へのチャレンジ 紙のノートと鉛筆は、多くの生徒たちにとっては学びを助ける素晴らしい道具になりますが、障害のある生徒では、学びを妨げる障壁になることがあります。その際、自分の持つ力が発揮できるよう、適切な範囲の配慮を得た状態で学びを進めたり、試験に参加することが「公平」であるという、障害のある人への「合理的配慮」という考え方をスカラーたちは学びました。自分にとって必要な配慮とは何かを考え、周囲と対話しながら、配慮を得ていくことを続けています。 #入試における配慮の実績 ##センター試験を代読で受けた伊井健悟さん(12スカラー) パソコンの音声読み上げ機能の利用を大学入センターに申請しました。音声読み上げ機能の利用は認められませんでしたが、代読による試験の実施が認められ、センター試験を受けました。 ## 県立高校の入試試験をワープロで受けた金坂律さん(11ジュニアスカラー) 入学試験では、申請していたパソコンの利用が認められ、主要五教科全てを、キーボード入力で解答しました。ただし、数学の図形の作図など、キーボード入力では表現が難しい解答に関しては、口述筆記を利用しました。漢字の書き取り問題は、代替問題として複数の同音異義語の中から正しい熟語を選択する問題が出題されました。 31ページ # これまでの学校や試験での配慮の申請の実例 2007 年度から始まった DO-IT では、過去に入試に向けてチャレンジをしてきたスカラーたちがたくさんいます。障害のない受験生たちと公平な条件で競争するために、コンピューターの利用は非常に重要なポイントになります。  ただし、単に試験のどのような場面でもコンピューター利用が認められればよいというものでもありません。小論文を書いてその論旨で評価を受ける場面では問題なくパソコンの使用が認められる可能性がある、というように、通常の学習場面よりもさらに、テクノロ ジー利用の合理性が問われることになります。  「本質的にその試験問題が測ろうとしている能力は何か」を関係者で共有して、本質的ではない部分はテクノロジー利用を認めて、障害のある人も参加できる教育機会を作っていくことが必要です。前例のない中で配慮を得ていく過程を歩んでいるスカラーたちは、その共通理解を作り上げていく営みを行っているとも言えます。 2007 年/事例1:肢体不自由(筋ジストロフィー)のある生徒が、大学入試センター試験と、某国立大学の一般入試において、キーボード入力による解答用紙の記入を認められた。 2009 年/事例 2:高次脳機能障害により、半側空間無視による無視性のディスレクシアのある生徒が、大学入試センター試験で PC による音声読み上げを申請するが認められなかった。ただし、1.3 倍の試験時間延長を認められた。 2010 年/事例 3:肢体不自由(脳性麻痺)のある生徒が、大学入試センター試験および国立大学の一般入試において、数式入力ソフトを用いて受験することが認められた。 ※大学入試センター試験における、発達障害(自閉症スペクトラム、LD、ADHD)に対する Accommodation の開始(前年までの視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、その他の4分類に新たに追加) 2011 年/事例 4:書字障害のある生徒が、某国立大学のAO 入試における小論文試験で初めて、ワープロを用いて受験することが認められた。 2011 年/事例 5:ディスレクシアのある生徒が某県の公立高校の入試(日本の高校入試においては、国語、数学、理科、社会、英語という5教科の紙ベースの学力試験が課されることが一般的である)において、PC による音声読み上げを申請するが認められなかった。ただし、代読が認められた。 2012 年/事例 6:肢体不自由(脊髄損傷による両腕の麻痺)のある生徒が、数学(およびそれ以外の物理・化学でも)、1.5 倍の試験時間延長、別室での受験、代筆でセンター試験と、某国立大学の一般入試を受験した。 2015 年/事例 7:大学入試センター試験で、ディスレクシアのある生徒が、PC による音声読み上げを申請するが認められなかった。ただし、大学入試センター試験では初めて、ディスレクシアのある生徒に代読での受験が認められた。 2015 年/事例 8:神奈川県の公立高校の入試において、日本の公立高校入試では初めて、書字障害のある生徒がキーボードを利用しての受験を認められた。 32ページ 6 一般公開シンポジウム DO-IT Japan には、多様な障害(発達障害、肢体不自由、視覚障害、聴覚障害、難病など)のある児童生徒や学生がスカラー(選抜生)として参加しています。来年度からの合理的配慮の制度施行が目の前に近づいてきました。私達はその制度がどのような形で作られてきているのかを知り、どのような合意形成の過程を経て配慮を得ていくかについて考えを深めることをテーマとしました。 # 話題提供 「障害者差別解消法の施行に向けて」 井上惠嗣 文部科学省 初等中等教育局特別支援教育課 課長 「高等教育段階における障害のある学生支援にいて」 小代 哲也 文部科学省 高等教育局学生・留学生課 課長補佐 現在、日本における教育の重要課題として、障害のある人と障害のない人が可能な限り共に学ぶインクルーシブ教育システムの実現が掲げられています。これは我が国も批准している国連の障害者権利条約に提唱されている考え方で、この条約の締約国である日本も、インクルーシブ教育システムに基いて教育制度が作られることになりました。来年 2016 年 4 月からは、いよいよ障害者差別解消法が施行され、教育場面で、障害のある児童生徒・学生に対して、正当な理由のない差別的取扱いを行うことが禁止され、合理的配慮も義務化されます(私立学校では努力義務化)。  合理的配慮には、大きく3 つの要素があります。「1:学校の設置者、公立では教育委員会、及び学校が必要かつ適当な調整を行うこと」。「2:障害のある子供に対し、その状況に応じて、学校教育を受ける場合に個別に必要とされるものだということ」。「3:学校の設置者及び学校に対して、体制面、財政面において、均衡を失した又は過度の負担を課さないもの」です。合理的配慮には「これが 1 番」「これが正解」はありません。障害のある子どもが学びの機会に参加することを目的として、それぞれの子どもの状況で個別に必要となる変更や調整が、学校場面で認められるかどうかについて、今の段階でのベストなあり方を、学校関係者と本人(保護者)でお互いに話し合い、合意形成を図っていきます。そこで得られた合意が「合理的配慮」と呼ばれることになります。  小中高校(初等中等教育機関)でも、大学等(高等教育機関)でも、すべての学校で差別的取扱いの禁止と合理的配慮の提供に向けての体制整備が必要となります。初等中等教育機関では、特別支援コーディネーターを中心として、校内委員会と連携しながら、合理的配慮の調整がなされるようになります。高等教育機関では、障害学生支援部署が置かれ、そのスタッフを中心として、合理的配慮が調整されます。また、障害のある学生からの不服申し立てに対応する学内委員会も組織されることが望ましいとされています。  学外にも、教育委員会、文科省、障害者差別解消支援地域協議会、法務局などに、相談窓口が用意されることになります。障害のある児童生徒への合理的配慮の実例を多数集めた事例集(インクルーシブ教育システム構築支援データベース)など、合理的配慮を提供するための体制整備に向けた取り組みも始まっています。 33ページ # ディスカッション 「DO-IT Japan スカラーの『合理的配慮』事例」 近藤武夫(東京大学先端科学技術研究センター准教授/ DO-IT Japan ディレクター) 平林ルミ(東京大学先端科学技術研究センター助教/ DO-IT Japan スタッフ)  今年で 9 年目となった DO-IT Japan の取り組みの中で、スカラーたちが大学入試で受験上の配慮を申請し、認められる事例も増えてきました。今年は DO-IT に 2 つのビッグニュースが知らされました。一つは、読み障害のある高校生スカラーが大学入試センター試験で代読という受験上の配慮を受け、大学に合格したことです。これまでも、発達障害への配慮申請として、時間延長やチェック回答といった受験上の配慮は認められていましたし、文字を見ることができない視覚障害では問題文を点字にするという受験の仕方を変更する配慮が認められてきました。しかし、文字を見ることができますが、文字を読むことが困難である障害、いわゆる「ディスレクシア(読み障害)」に対しては、時間延長や問題文の拡大が認められているに留まっていたのです。問題文の代読を受け、センター試験を受験するという例は、今回が初めてでした。  そしてもう一つは、書字障害のある中学生スカラーが、高校入試の 5 教科の学力試験でワープロを使って解答することを認めるという配慮を受け、高校に合格したことです。  しかし、初等中等教育における学習上の困難のある子どもたちへの対応についてはまだまだ課題が多いのが現状です。DO-IT の事例の中でも、計算障害のある児童生徒が電卓を用いて試験を受けたことは、まだありません。スカラーたちが行ってきた周囲への説明と、それに対して配慮を提供する側の具体的対応を知ることは、来年からの合理的配慮の制度施行において参考になるでしょう。 【学習上の困難を助ける機器の使用方法】 読み:読み上げ、拡大、ハイライト、辞書、電子書籍 書き:ワープロ、写真、録音、音声入力 計算:電卓 記録:写真、録音 思考:マインドマップ 見通し:スケジューラー、リマインダー、タイマー 感覚:耳栓、ノイズキャンセリングヘッドフォン、サングラス 注意:ハイライト、リマインダー、ノイズキャンセリングヘッドフォン ナビゲーション:マップ、GPS コミュニケーション:電子メール、写真、録音、音声入力、スタンプ (以下写真) 石井洋二郎 東京大学 理事・副学長 神ア亮平【司会】 東京大学先端科学技術研究センター・副所長 大島友子 日本マイクロソフト株式会社 技術統括室 プリンシパルアドバイザー 加藤公敬 富士通株式会社/(グローバルマーケティン グ部門)マーケティング戦略室 デザイン戦略 担当 シニアバイスプレジデント 佐藤里美 ソフトバンクグループ 株式会社エデュアス事業推進部部長 34ページ 7 DO-IT Japan の概要と未来への展望 DO-IT Japan は、障害や病気のある若者から未来のリーダーを育てることをミッションとしています。2007年度に開始され、障害のある学生にテクノロジーを提供し、必要な配慮を得た上で高等教育へ進学することを支援してきました。DO-IT Japan プログラムでは、障害や病気のある小中高校生・大学生の高等教育への進学とその後の就労への移行支援を通じ、将来の社会のリーダーとなる人材を育成するため、「テクノロジーの活用」を中心的なテーマに据え、「セルフ・アドボカシー」、「障害の理解」、「自立と自己決定」などのテーマに関わる活動を行っています。 # 障害のある児童生徒の進学をめぐる状況 DO-IT Japan では、2007 年に高校生プログラムを開始した後、2010 年からは大学生を対象としたプログラムを、2011 年からは読み書き障害のある小学生プログラムを、2013 年からは読み書き障害のある中学生プログラムをというように、徐々に対象範囲を拡大して来ました。2014 年は、読み書き障害以外の障害のある中学生プログラムの募集を始めました。そして、2015 年は、高校入試において ICT の活用が進んでいない状況を打開することを目的とした「アコモデーションコース」を開設しました。  「障害者差別解消法」の施行は 2016 年 4 月と目の前に迫りました。今年は文科省を中心としてこの法律の施行に向けての準備が進められた年でした。高等教育についても、全国の大学が連合して、障害のある学生の支援を進めていくことについて協議する「全国高等教育障害学生支援協議会 AHEAD JAPAN」も新たに組織されています。オリンピック・パラリンピックでの障害者スポーツへの関心の高まりや、障害のある児童生徒・学生を取り巻く支援体制が育っていくニュースを耳にする機会も増えました。全国の学校で、差別的取扱いの禁止や合理的配慮の提供について、体制整備や理解啓発が進むにはまだまだ時間がかかるとは思いますが、確実に「インクルーシブ教育システム」が芽吹こうとしていることを感じられる年になりました。  今年の DO-IT Japan の夏季プログラムでは、大学を卒業して就労したスカラーや、すでに社会の第一線で活躍する障害のある方々をお招きして、参加した他のスカラーとともに、障害を切り口に多くの社会問題について議論するプログラムが多数行われました。入試な ど前例のない学びの道を切り開いてきたスカラーたちの次に必要となるチャレンジは、自ら社会の変革を生み出すことです。これからもDO-IT Japan は着実な取り組みを続けていきます。 # DO-IT Japan と障害学生数の将来予測 年度、DO-ITスカラー、参加人数 2007 12、障害学生在籍率 / 0.16% 約 5,000人 2008 23、 2009 32、 2010 46、 2011 61、障害者基本法の改正(「合理的配慮」の登場) 2012 74、中教審「インクルーシブ教育システム」報告、高等教育での配慮「就学支援検討会一次まとめ」報告 2013 88、障害者差別解消法の成立、障害者雇用促進法の改正(雇用での合理的配慮の義務化) 2014 105、国連障害者権利条約の批准、障害学生在籍率 / 0.42% 約 1 万 3,500 人 2015 112、2016 障害者差別禁止と合理的配慮が法的義務化(差別解消法と雇用促進法の施行)、障害学生在籍率 / 0.44% 約 1万 4,000 人 2020 予想175、障害学生在籍率(予想)/ 2.0% 約 6 万人 35ページ # DO-IT Japan 2015 年度データ ## スカラーの障害内訳 ※重複あり 発達障害46 人 肢体不自由47人 聴覚障害 10 人 視覚障害 8 人 高次脳機能障害 5 人 盲ろう 1 人 ## スカラーの出身地 秋田県、富山県、長崎県を除く地域全て ## スカラーの大学進学者総数 年度、スカラー総数、大学進学者総数 2007年度、12、0 2008年度、23、3 2009年度、32、9 2010年度、46、20 2011年度、61、30 2012年度、74、36 2013年度、88、48 2014年度、105、58 2015年度、112、70 ## DO-IT Japan への参加の流れ 4 月上旬頃 スカラー(中学生・高校生・高卒者・大学生) 募集発表 DO-IT Japan ウェブサイト(http://doit-japan.org/2015/)やチラシ等で募集発表します。参加希望者はウェブサイトから応募書類をダウンロードしてください。 4 月中旬〜 5 月上旬頃 スカラー応募期間 作成した応募書類を DO-IT Japan事務局へ郵送してください。 5 月上旬頃 第一次選考(書類選考) 応募書類に基づき、審査委員会によって参加候補者を選考します。 5 月中旬〜 6 月上旬頃 第二次選考(面接) 第一次選考を通過した参加者と面接を行い、参加最終選考します。 6 月上旬頃〜 参加準備オンラインミーティング パソコンや IC レコーダー等の機材と、それぞれの障害にあわせた支援機器を自宅へお送りします。その後、インターネットを通じ、夏季プログラムへ参加するための準備ミー ティングを行います。 8 月上旬 夏期プログラムへの参加 8 月中旬以降 オンラインメンタリングへの参加 年間を通じて、メールやチャットミーティングを通じて様々なテーマについて専門家に相談したり、仲間と議論したりします。 36ページ 裏表紙 【主催】 DO-IT Japan 東京大学先端科学技術研究センター 【共催】 ソフトバンクグループ (株式会社エデュアス、ソフトバンクモバイル株式会社) 日本マイクロソフト株式会社 富士通株式会社 【協力】 旭洋鉄工株式会社 沖電気工業株式会社 オリンパス株式会社 株式会社京王プラザホテル 株式会社東芝 株式会社トヨタレンタリース東京 株式会社日立ソリューションズ・クリエイト 特定非営利活動法人 サイエンス・アクセシビリティ・ネット フォナック・ジャパン株式会社 【後援】 厚生労働省 文部科学省 (五十音順) 【お問い合わせ】 DO-IT Japan 事務局 〒 153-8904 東京都目黒区駒場 4-6-1 東京大学先端科学技術研究センター人間支援工学分野 (電話・FAX)03-5452-5228  (E-mail)info@doit-japan.org  http://doit-japan.org/ Design&Illustration 桑田 亜由子 Photograph 青木 遥香 以上