DO-IT Japan 2011Report 障害のある、あるいは病気を抱えた学生のための大学・社会体験プログラム Disabilities, Opportunities, Internetworking, and Technology Japan 【見出し記号の凡例】 見出しレベルの大きいものから小さいものの順に、次の記号を使用しています。 ## 見出しレベル1 #  見出しレベル2 ■ 見出しレベル3 □ 見出しレベル4 【見出し記号の凡例 終わり】 P.2 ##バリアフリーが産み出すバリア  障害のある子どもたちと配慮ある社会を創るという目的でスタートしたDO-IT Japanの活動も5年目に入った。その間、多くのスカラーたちが目標とした大学進学を果たし、すでに就職試験に臨む者もいる。試験への配慮申請を通して多くの機関が彼らの存在を知り、少しずつ門戸を広げてきたのはこの活動の成果でもある。  一方、スカラーとして選抜された高校生たちの積極性やコミュニケーションスキルの低さに驚く事もしばしばである。今年の高校生スカラーたちは、テーブルに並べた全部種類の違うお弁当を選ぶ所からプログラムをスタートした。誰かがリーダーとなって上手く弁当を振り分ける事を期待したが、お互いにコミュニケーションをとることなく勝手にお弁当を選んでしまった。肢体不自由や視覚障害の仲間がいることを知ってはいるのだが、一言声をかける勇気がなかったのかもしれない。3月の東日本大震災を体験してお互いが助け合う大切さを国民が学んだはずだが、親に支えられる事が当たり前のスカラーにとっては助けあう事は教科書の中の世界だったのかもしれない。そこには、「社会が配慮しないから親が子どもを守る」→「子どもは 守られて育つから自立した社会経験が乏しくなる」→「当事者が社会へアプローチしないため社会は配慮を考えない」といった複雑な背景がある。   DO-IT Japanは社会を共に変革する学生を育てることを大きな目標に掲げている。あえてバリアフリーでない環境を時に準備するDO-IT Japanに対し、厳しすぎるのではないかという批判も耳にする。障害のある子どもにバリアをあえて与える事への親の不安も理解できなくはない。しかし、この悪循環を断ち切るため、そして、安心して子どもを手放せる社会を創るためにも、親とDO-IT Japanが同じ考えで子どもに様々な経験を積ませていく必要性がある。そういった日常をリアルに感じる事こそ彼らが社会で生きる上で重要である。DO-IT Japanが目指す社会変革を加速するため、スカラーやジュニアスカラーの家族の理解を通じてさらなる推進力を得られればと思っている。 DO-IT Japan ディレクター 中邑 賢龍 #Contents p.03-04 DO-IT Japan 2011 夏季 大学体験プログラム一覧 p.05-13 高校生向けプログラム ー夏季大学体験プログラムを終えてー p.14-18 小学生向けプログラム p.19-23 大学生向けプログラム p.24 様々な企業・機関に支えられるDO-IT Japan p.25-28 一般公開シンポジウム p.29-30 DO-IT Japanの概要と未来への展望 P.3 ##DO-IT Japan 2011 夏期大学体験プログラム スケジュールのページへのリンク http://doit-japan.org/report2011.html#schedule #ご支援いただいた方々 加治佐俊一 氏(日本マイクロソフト株式会社 CTO) 藤田正美 氏(富士通株式会社 副社長) 池田昌人 氏(ソフトバンクモバイル株式会社CSR推進部長) 武藤芳照 氏(東京大学副学長) 中野義昭 氏(東京大学先端科学技術研究センター所長) P.4 #ご講義いただいた方々 飯田誠 氏(東京大学先端科学技術研究センター特任准教授) 生田幸士 氏(東京大学先端科学技術研究センター教授) 熊谷晋一郎 氏(東京大学先端科学技術研究センター特任講師) 綾屋紗月 氏(東京大学先端科学技術研究センター交流研究員) P.5 ##DO-IT Japan 高校生向けプログラム ー夏季大学体験プログラムを終えてー #DO-ITでは自分で行動することが多かったので、その分悩むことも多かったかもしれません。でも、自分の障害をよく知るいいきっかけになったと思います。奥田 悠暉 私は初めてDO-ITに参加して、参加者と交流したり、大学の講義を受けたり、パソコンのソフトを実際に使ったりして、障害などに対する考え方が少しずつ変わり、今までにない経験をするいい機会になりました。  私にとって自分の考えが変わったきっかけは大きく分けて、4つあります。  1つ目は講義「エネルギー問題」でのことです。私は地球温暖化は世界規模の問題で、遠い未来を予測していかないといけないことを学びました。私が今までそのことに気がつかなかったのは、私は地球温暖化を身近な範囲でしか考えてなかったからだと思いました。このことから、環境問題は日本だけではなく世界の中で考えるものだということを知ると同時に、私たちに関しても個人で物事を進めるだけではなく、全体で物事を進めることも重要だと思いました。  2つ目は大学とはどういうところなのかを聞いているときのことです。大学は施設や設備が整っているだけではなく自由時間が多く、論文やレポートを提出することが多いことがわかりました。そして、大学では自分のやりたいことや興味のあることを追究できる楽しいところだと気づき、より、勉強をがんばろうと思うようになりました。また、大学生リーダーへ質問して、大学の推薦入試は自分を自由にアピールできることを知り、自分の興味のあることが自己表現にもつながっていることに気づきました。  3つ目はパソコンを使った実習のことです。パソコンに使い慣れていないせいでもあって、まだ使いこなせたかどうかはわからないけれども、頭の中で考えるよりもパソコンを使うと自分の考えをうまくまとめたりスケジュールを簡単に立てたりすることができることを知って、頼もしいと思いました。こんなに1日中パソコンを触ったのは初めてです。マッピングソフトVisioやOneNoteはこれからの自分のよい手助けになると感じました。また、この実習を通して人ばかりではなくツールに頼ることも大切だなと思うようになりました。これからはパソコンを活用する機会を増やしていきたいです。  そして最後の4つ目は自分の障害のことについてです。このDO-ITに参加するまでは、自分はどういうことに困っているのかがよくわからず、私は他の人と比べて変わっているなというような漠然とした考えしかありませんでした。しかし、DO-ITでさまざまな場面にあっていくうちに少しずつ自分の障害のことがわかってきました。それは、ホテルから駅までの行き方をみんなにわかるように説明したり、夜の討論で人の意見を聞いたりするときに特に感じられました。DO-ITでは、自分で行動することが多かったので、その分悩むことも多かったかもしれません。でも、それは単なるマイナスではなく、自分の障害をよく知るいいきっかけになったと思います。  もし、DO-ITに入れなかったら私は勉強以外でも悩んでいることに気付かずにいたのかもしれません。わたしはこれからDO-ITで活動するときは自分の障害だけではなく、他の人の障害にも目を向けてそれを自分の行動に生かしていきたいです。 ■奥田 真知子(保護者)  勉強が好きで真面目な努力家。友達づきあいは苦手ですが、動物や昆虫が好きな心の優しい悠暉です。高校に入るまでは一人で電車に乗れるかと家族みんなが心配したほどの彼ですが、なんとこのDO-ITでは4日間自立した生活をし、東京から滋賀まで一人で帰ってきました。アスペルガー症候群の彼は今でこそ学校生活に際立った不便さは見られないものの、日常生活や人との関係での不器用さ、付き合いにくさはその見た目とのギャップで時々周囲を混乱させます。これまではそんな彼の特性を理解してくれる“人の支援”に頼ってきましたが、成長に伴う環境の変化にこれからは一人で切り開いていかなければ、と厳しい現実を感じ始めていました。しかし今回のDO-ITでこれまで彼自身関心を示さなかった“機器の支援”というものが彼の強い味方になることに気づきました。彼の考える将来の目標を夢で終わらせない、強い一歩を踏み出せたように感じています。皆さんと出会えたことに感謝しています。 P.6 #DO-ITの先輩や講師の話を聞いて、大学生になったら電動車いすを使ってみたいと思うようになりました。横山 羽依  4日間のDO-IT生活は楽しくて、あっという間でした。密度の濃い時間のなかで、様々なことを学べました。  まず心に残っているのは、パソコンの利用のことです。DO-ITには、いろいろな障害がある人たちがいて、それぞれ必要な支援の内容が異なっていました。社会全体で考えたら、たとえば、視る上での困難一つをとっても様々な人がいて、「字を大きくすればいい」、「コントラストを強くすればみんな大丈夫」といったそれぞれのニーズに対応することが必要で、誰にとっても最良で万能な対応というのはありません。(点字ブロックが邪魔な人もいるらしいし。)そう考えると、自分は気づかず使ってきたけれど、紙媒体というものは融通がきかず、不便に感じる人もいると知りました。それに対してパソコンは、自分の使いやすいように変えられます。今まで知らなかったパソコンを使ったノートテイキングも習い、ひとりひとりのニーズに合わせて柔軟に変化してこそ、ユニバーサルデザインだと感じました。しかし実際の入試では、障害をもった人が普段通りにパソコンを使えなかったなど、入試でのパソコンの利用はまだまだ理解が進んでいないと聞き、日本はそういう分野ではやはり後進国で、こんな状況は変えていくべきだ、と感じました。  また、DO-ITの先輩方や、車いすを使いながら医師として活躍されている熊谷さんのお話からも、新しい考え方を学ぶことができました。わたしはこれまで、自分の行けるところまでは歩いたりして、困難があることでも、できるところまでは頑張ることがいいことであると思っていました。しかし、やれることを全部やっていこうとすると、忙しい大学生活やその先の生活では、自分がほかの人より時間や体力の負担が余計にかかること(わたしの場合、長距離を歩くこと)を精一杯することが、本当に自分がやりたい、やらなくてはいけないことに全力を尽くすことを妨げるかもしれない、とも薄々感じていました。そんなわたしは、ある先輩の話に衝撃を受けました。時間も体力も限りがある。だから本当にやりたいことに最大限力を発揮するためには、わざわざ人より大変であることをせずに、「頑張ればできること」でも積極的に人に頼めばいいじゃないか。この考え方については期間中、議論もされ、いろいろな人が意見を交わしました。そして更に驚いたことは、同じような意見を持っている人がほかにもいたことです。わたしは、大学生になったら電動車いすや電動アシスト車いすを使ったら、と周りの人から言われていましたが、別に歩けるのだからそれは必要ないのでは、と内心思っていました。しかし今回のことがきっかけで、移動時間の短縮や体力の温存のため、使ってみたいと思うようになりました。 DO-ITはわたしにとって、驚きの連続でした。かっこいい先輩方や楽しい同期の人たち、そしてすばらしい先生方に感謝!です。これからもDO-ITと末永く付き合っていきたいです。 ■横山 和江(保護者)  地方で暮らし、高校へは自転車通学という狭い世界で生活する娘にとって、電車で大学へ通う経験は、まさに「冒険」だったのではと思います。東京にある大学への進学を希望しているので、模擬学生生活を経験したり、先輩方のお話をお伺いしたりすることで、具体的なイメージを持つことができ、勉強へのはげみになったことでしょう。  生まれてはじめてひとりで新幹線に乗って帰ってきた娘は、少しだけ成長したようです。これも、たくさんの人と知り合い助けていただいたおかげと、感謝の気持ちでいっぱいです。引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。 P.7 #自分の目線をほかの障害の人と同じにしてみると、今まで何気なく生活してきた空間のそこかしこに相手にとっての段差があった。小川明子  DO-ITでの4日間は、いろいろな人の貴重な話を聞くことができ、有意義な時間を過ごすことができました。  期間中はそれぞれが初日に障害のことを少し話していたので、互いに助け合う生活をしていました。たとえば、相手の人のために文字を読んだり、車いすを押したり、逆に、聞き取れなかったことを教えてもらったり、次の日の確認をしたり。自分には出来るけど相手にとっての苦手、自分にとっての苦手だけど相手にとってはふつうのことを互いに補いながらの生活は、私の今までの障害を隠していた生活と180度違い、とても楽に息を抜いて過ごすことができました。  私は特別視やいじめ等をされるのが怖くて、先生や友人などには話さずに、幼稚園から今の高校まで過ごしてきたので、助けを声に出して求めづらくて、何か困ったことがあっても、自分で乗り切ろうと息を押し殺して生活してきました。そんな私にとって、今回のDO-ITでの経験はすごく新鮮で、考え方を変えるきっかけにもなりました。  高校に入ると、必要な情報は今までとはケタ違いで、プリントは配られずに口頭だけで説明されることが多くなりました。これは私の苦手分野でした。メモを取ってもいましたが、メモをなくしてしまったり、書字LDのために早く字が書けなくて、メモが取りきれなかったり、先生の話が早すぎたり、アスペルガーで集中できないために一部分が聞き取れなかったりしました。障害のことを友人にオープンにしていない分HELPを求めづらく、自分で何とかしようと学校に、ボイスレコーダーや、ケータイでのプリントの撮影の許可を求めたりもしましたが、「自身のことを周りに公開しない限り支援機器を学校に持ってくるのは校則違反になる」といわれ、どれもうまくいきませんでした。  DO-IT期間中は、知らない人と知らない空間の中で過ごすので、最初は精神的にも肉体的にも疲れることもありました。しかし、障害に対して理解のある方たちの中では、HELPが比較的だしやすいため、過ごしやすかったです。また、自分の目線をほかの障害の人と同じにしてみると、今まで何気なく生活してきた空間のそこかしこに相手にとっての段差があって、それを私にはどう補うことができるかを考え、相手に提案してみる積極性を身につけることが少しできたと思います。  プログラム内で、幅広い年齢層や立場の方、様々な障害の方の話を聞くことができ、マイクロソフト社の未来の商品の話や大学入試における配慮申請の話など、早くに知ることができてよかったことがたくさんありました。それらによって私自身の未来への可能性や希望が見えてきました。これからは、今まで障害者だからと自分で自分を甘やかしてきた未熟な部分や、苦手な部分を克服するために、支援方法や様々な機器を探して、高校に承諾してもらえるよう、働きかけたいと思います。  今回のプログラムは私にとって、過去の自分を振り返り、どう克服していくかなど、多くのことを考える契機となりました。これからも夢に向かって学び続けていきたいと思います。 ■小川 育子(保護者) 参加への不安は、感覚過敏等、配慮事項についての事務局の丁寧な対応に、勇気に変わりました。 昨年、DO-IT Japanの小中学生企画に参加後、娘は障害の事を高校に説明に行き、障害者受験配慮を申請して高校を受験しました。11スカラーとして参加した今回も、最終日にはDO-ITシックになる程有意義な体験を重ね、言うこともすることも、ふたまわり大きくなりました。 私もスカラーの保護者やスタッフ等、共感し背中を押してくれる温かい心強い仲間に出会え、肩の力が抜けました。  障害や病気故の困難と工夫を知ってもらい、適切な支援が当たり前に受けられる社会ができますように。人生の転機をくれたDO-ITのことを多くの人に伝えていきたいと思います。親子で、いい体験、いい出会いができたこと、DO-ITに本当に感謝しています。 P.8 #人に自分の障害を伝えるのは、やはり難しい部分があるけれど、大切だと思いました。川口真実  私は、DO-ITに参加して、自分と違う障害をもった人や、それに関わっている沢山の方々と知り合うことができました。そして、それまであまり意識していなかった事を考えたり、色々なことに気が付くことができました。私は普通校に通っているため、他の障害をもった人がどんな物を使い、どんな事に困っているのかあまり考えたことがありませんでした。しかし、DO-ITを通して、移動時や、それぞれのプログラムのなかで、「こういうものが必要なのだな」と、気が付くことができました。  また、自分の障害についても考える機会となりました。今まで自分で見えないところは、親や友達に教えてもらったりしていましたが、心のどこかに、申し訳ないという気持ちがありました。それに、せっかくやってもらったのに、少し違うんだよなと思うこともありました。それは私がどの位見えていないのか、どんな支援をしてもらいたいのかをきちんと周りの人に伝えていなかったからだと思います。だからこれからはきちんと伝えようと思いました。  大学生リーダーの皆さんのお話も、とても参考になりました。特に、入試の事や、大学に入った後の事についてのお話を伺って、当たり前かも知れませんが、大学は私の今いる環境よりも厳しく、もっと自分から積極的に支援を求める必要があることが分かりました。また、入試制度についても、改めなければいけないところがまだまだあるように思いました。私は、定期テストの試験時間を1.3倍に延長してもらっています。これは、センター試験の延長時間と同じなのですが、科目によってはいつも最後まで問題を読み切れないで終わってしまう教科もあります。しかし、そのことをはっきりと周囲の人に伝えたことはありませんでした。一方で、私のように困っていることを伝えていない人がいるのかもしれないと思いました。困っている人が一人でも多く声を上げれば、入試制度が少しでも変わるのではないかなと思います。  そして、小さな文字を読んだり、板書をするのが難しい私にとって、パソコンでノートをとるということは、画期的なことでした。しかも、デジタルノートソフトウェアのOneNoteには、私が想像していたよりも沢山の機能があり、驚きました。これを使いこなせるようになったら、授業も楽になりそうです。  今回DO-ITに参加することで、いろいろな意味でのたくさんの学びがあり、今まで知らなかった多くの事を発見し、考えることができました。先生方はもとより、多くのチューターの方、スタッフの方のおかげでとても充実した4日間を過ごすことができました。ありがとうございました。 ■川口 育子(保護者)  娘がDO-ITに参加できると知った時、嬉しくて希望の光が見えた気がしました。どんなに大変なことがあっても、自分の人生を生きていくのは自分しかいません。そのために親は何をしてやれるのか、子供を産んでからいつもそれを考えてきました。  その一つは環境を与えてやることだと思います。成長し自分で環境を勝ち取っていけるように。しかし障がいのために努力しても環境が得られないとしたら…。口にださなくとも娘の中にそんな不安があるのではないかと感じてきました。「もっと大変な人はいっぱいいる」なんて言ってみても、本人にとってはやはり大変なんです。それは中途障がいになった私自身が一番わかっています。何とか世界を広げてやりたい、広い視点で客観的に自分を見られるように。それには人の力を借りるしかありません。普通校の中で感じるみんなとちょっと違う自分、でもみんなと違っても自分は劣っているわけではない、自分の努力で道を切り拓いていけばいい、今回のDO-ITでそう感じてくれたら嬉しいです。  最終日、駅まで歩きながら「人の意見ていろいろあって、本当にいろいろな人の話を聞くことって大事だと思った」と話してくれた娘に、耳ではなく心で話を聞き、たくさん自分の頭で考えたんだということがわかりました。どんなに技術が進んでも、人の力はやはりすごい! 娘にはこれからも今まで通り人を大切にしてほしいです。  今回も11スカラー人数の、何倍もの皆さんが関わって支えて下さって、たくさんの方と出会えて、親子共々幸せで感謝の気持ちでいっぱいです。皆さん、有難うございました。そしてまだまだ続くDO-IT、これからも宜しくお願いします。 P.9 #困難を抱えていても、工夫次第で克服できるのだと希望を持てました。高井凜 昨年初めてDO-IT Japanの存在を知った私は、その活動に感銘を受け、今年11スカラーとして参加しました。今回のプログラムでは特に、多様な障害について理解するとともに、与えられた環境の中でどう対処するのかを学びました。 例えば、世の中には色の組み合わせが見にくいという、色覚障害の方がいます。自分たちにとって見やすい色でも、その人たちにとっては見にくいということが起こります。見え方は本人しか分かりません。想像や推測だけで配慮を行ったとしても、それは配慮になりません。個々人のニーズを聞きだし、それに沿って配慮を行うことが大切だと学びました。また、全盲の方でも、コンピューターを使うことで、入力した情報を音で確認できます。点字やIT技術をフル活用することで、皆と同じように情報を共有できるのだと知りました。 今回学んだ中で一番重要だと思うのが、「アクセシビリティ」という考え方です。それは、「その人の都合に合わせて、使いやすい代替手段を探し出す」というコンセプトです。困難を抱えていても、工夫次第で克服できるのだと希望が持てました。ITは人の可能性を広げてくれる、非常に有用な技術だと感じました。 障害をもつ大学生リーダーが大学生活について話して下さり、イメージが持てたとともに、どんなことが必要かということも知りました。中でも、「合理的配慮」という考え方は今までにはない新しい発想でした。合理的配慮とは、配慮をする側、受ける側との間に納得できる正当な理由があれば、配慮を受けてよいという意味で、配慮を受ける上で非常に大切な考え方だと思いました。やはり当事者である私たちが積極的に働きかけ、訴えないと、社会はなかなか動いてくれないと思います。そのためにも、自分ができることとできないことを見極め、適切に頼る力が必要だと感じました。 この4日間を楽しく、充実したものにできたのは、同じ時間を共有した仲間や、支えてくださった方々のおかげです。スカラーのみなさんと仲良くなり、本当に楽しい時間を過ごせました。チューターや先生方ともいろんな話ができ、元気づけられたり、励まされたりもしました。また、時間の管理やプランの設計など、自分はまだまだ甘かったなと気づきました。しっかりと下準備をすることや、皆の要望に沿って決めていくことなど、たくさんの課題が発見できました。 私は中途障害だったこともあり、障害者でありながら、障害についての知識が少なく、障害に向き合うことも避けていました。今回の4日間で、多様な障害を持つ人と交流し、障害についてもっと理解したいと思いました。「人と違うことがいいこと」という考えを心に刻み、障害とうまく付き合っていこうと前向きになれました。これからもDO-ITの活動に貢献していきますので、よろしくお願いします。 ■高井 弘子(保護者)  交通事故で脊髄損傷、中途障害の凜は、努力と根性でハンデをゼロにし、忍耐と継続で遅れを取り戻してきました。このやり方では、いつか身体や心が壊れてしまうだろうと以前から心配しておりました。心配どおり私立医科大受験後に心がからっぽになってしまったとき、偶然DO-ITのプログラムを知りました。  参加が決まるまでは、「車椅子では医学部に入れない、障がい者は医学部を受けたらダメなのか」と落ち込み、「障がいのない人にはわからない」と黙ってしまうこともありました。実際に参加し、様々な障がいをもつ仲間や先輩と出会い、社会や大学に立ち向かっているのは自分だけではない、仲間もいるし応援してくれる人もいると知って、勇気がでてきたことが感じられました。他人の目を気にしなくなり、人の話を聞き第2の道を探る余裕もでてきたように思います。  「自分を肯定できるようになってほしい」「状況を説明し、要望や理由を訴えることを知ってほしい」と密かに期待したことにも近づきつつあり、感謝の気持ちでいっぱいです。DO-IT Japanの関係者の皆様、ありがとうございました。DO-ITで社会を変え、障がいのある人たちがない人たちと同様に認められ評価されることを願ってやみません。 P.10 #車いすを押してみると、気を抜いただけで車いすがあらぬ方向に向かい、座っている人に負担を与えてしまった。他の参加者が持つ障害について深く考えた。池嶌千裕  正直、このDO-ITに参加することが決まった時、俺は不安でしょうがなかった。自分が今まで経験したことがなかった出来事だし、何をすればいいのかも分からなかったからだ。だが、この五日間で俺は様々な障害を持っていて且つユニークな人たちと出会い、ここでしか経験できないことを体験し、習得することができた。  それと同時に、この世界に存在する様々な障害やそれを持つ人たちについて、とても深く考えさせられた。それは、自分がいかに他の参加者が持つ障害について知らなかったか、そして、いかに自分は周りが見えていなかったか、ということである。たとえば移動の際、俺は都心に慣れているのもあってか後ろに同行者がいるのを忘れて先にどんどん前に進み、みんなを置いてきぼりにして、アドバイザーの先生に注意されたことがあった。そこで初めて、車いすを利用している人からしたら、自分の歩くのがいかに速かったか、気づくことになった。今まで自分の歩くスピードが標準だと思っていたが、自分ばかりが中心ではいけないと思った。その後は、なるべくゆっくり歩いたり、時折後方を確認するようになった。  そして参加してよかったと思ったことは、初めて車いすを押したこと、いろいろな障害を持つ人たちと話して知り合いになったこと、そして夏季プログラムでパソコンソフトを使った様々なテクノロジーに実際に触れたことだ。その中でも、特にマイクロソフト社のマッピングソフトVisioは自分の中で一番印象的だ。今までアイデアが浮かんだとき、またはメモを取るときなど、それを紙に書くという作業がどうしても出来ず、苦労していた俺にとってまさに救世主ともいえるものだった。 こういった経験は必ず自分の糧となっていくだろう。今回DO-ITに参加して、俺は改めて自分の持つ障害と向き合うことになった。そして物事を一つの視点だけからではなく、様々な方向から見る必要性を強く感じた。今は大学受験に向けて勉強中だが、これからもDO-ITに参加していきたいと思っている。 ■池嶌 裕子(保護者) この度は、息子をDO-IT Japanのスカラーに選んでいただきましたことを、感謝いたします。 プログラム最終日、四日間のプログラムを終え、最寄り駅までの道すがら、息子にDO-ITに参加してどうだったか?と質問をしたところ、「綾屋紗月さんに、フリーズしてしまうことを質問したら、一人で抱え込むことはないのだと助言され、そうなのかと思った。」と言いました。3年前、ADHD、広汎性発達障害があると分かるまで、たった一人で誰にも理解されず15年間生きてきた息子にとって、安心出来る言葉だったようです。  このプログラムに参加したことによって、息子は、様々な困難をもつ仲間と出会い、彼らの前に進む強い姿に、影響を受けたと思います。彼自身を覆っていた堅い殻を少しずつ破りながら、素直に自己肯定感を感じ、人を信用することを学んだと感じます。そして、このすばらしいプログラムをより一層学び、人間として、日本人として、偏見の無い、同じ目線の平等な社会を作る使命を果たしてほしいと思います。 P.11 #「仕事とは誰もが皆チームで行うものだ」という言葉が印象的でした。障害を持って生まれた私しかできない役割が社会の中にあるかもしれない。板崎葉月 私は先天性骨形成不全症という障害を持っていて、生まれてから何十回もの骨折と度重なる手術を経験しました。学校は小・中・高と普通校で過ごし、先生方や友達、周りの方々に恵まれていたおかげでとても充実した学校生活を送っています。今回、DO-IT Japanのプログラムに参加させて頂いた動機はいくつもありますが、一番は自分が将来社会人として生きることに抱いていた不安を解消できたらというものです。社会に出るのは学生として勉強しているだけでよいのとは訳が違い、もっと自立していかなくてはと思っていました。 そのような中、参加させて頂いたDO-ITでは想像していた以上のことを経験し学ぶことができました。その中でいくつか特に心に残ったことを紹介させて頂きたいと思います。 今回の講師で、小児科医である熊谷先生がおっしゃった「仕事とは誰もが皆チームで行うものだ」という言葉がとても印象的でした。その言葉のおかげで、私はみんなが持つ得意なこと、苦手なことを仲間で分かりあい支えあうものが社会なのだと気づくことができました。これはきっと、健常者でも障害者でも関係がないことでしょう。 またもう一つ気づくことができたことがあります。それは「自立」という言葉の意味です。私は今まで何でも自分でやることが自立だと思っていましたし、それを目指していました。一方で、それは私の状態では難しいことだとわかっていたので、その目標に大分プレッシャーを感じていました。しかし、この4日間、障害者とその支援者の方との関係や、DO-ITの方々が紹介してくださったITを使った支援機器などを実際に使ってみて、全て自分でやることが自立の意味ではないし、支援を頼むことも大切な力の1つであることに気づきました。また、そのためには、自分がやり遂げたいことをはっきりさせること、自分にしかできないことがあることを知ること、そして何より感謝の心を常に持つことが助けになるのかなと感じています。私はこれから大学に進学することで自分の誇れるものを1つでも多く増やしていき、将来の自分に向けての糧にしていけたら、と思っています。 今回のプログラムで、私は色々な立場の方の視点から、障害者の社会進出のあるべき姿、未来の姿などを教えて頂くことができました。沢山の情報や考えに触れることができ、とても濃厚な時間を過ごすことのできた4日間でした。今回得たことをじっくり自分の中で捉え直し、自分なりの社会との関わり方についての答えを見つけていくことが自分の課題です。この体験で、今、私は、皆が共に生きる、共存していける社会を強く願うとともに、そのような世の中を作る一員になれたらと思っています。 ■板崎 早苗(保護者) 2006年に新聞記事でDO-ITの活動を知りました。そのとき、私は公開講座を聴講いたしました。その頃、娘は小6で、中学受験の真っ直中でした。車いすでの受け入れは困難な学校もありましたが、都立の中高一貫校に入学することができました。しかし、大学受験における対応は、親ではなく、本人が解決すべき課題であると考え、是非DO-IT JAPANに参加させて頂き、本人が解決能力を得ることを期待したいとの思いを温めておりました。 これまでの度重なる入院で一人での外泊の経験はありましたが、一人でのホテル宿泊の経験等はなく、自立した楽しい日々を過ごしたようです。朝のビュッフェでは、外国人の方にお手伝いをして頂いたことなど楽しそうに話してくれました。今回の参加で、人との繋がり、共存すること、感謝することの大切さなど、多くのことを学べたように思います。 今後は、この経験を踏まえ、自らの目標に向かい努力を重ね、扉を開けて飛躍して欲しいと願っております。DO-IT Japanがこれからも多くの受験生の希望となり、益々発展することをお祈り申し上げます。 P.12 #様々な障害を持った人の話を聞けたことで、自分自身を理解できていないことに気づき、考え方や感じ方が柔軟になったような気がします。高橋 あゆみ  私は障害が判明したのがとても遅く、今までどうしてできないんだろう?どうしてうまくいかないんだろう?ということにとても悩まされてきました。ちょうど自分の障害がわかってきた頃にDO-ITのことを知り、過去の参加者による報告書を読んでみて、ここに行けば何か変わるかもしれない、やる気が出てくるかもしれないと思い応募しました。実際にプログラムに参加してからは考え方や自分に対する理解がだいぶ変わったと思います。  私の中で一番自分のためになったと思うことは、夜の対話型セッション「働くことについて語ろう」でした。講師である綾屋さんのお話を聞いて、似たような体験をしてきた私はそこで初めて客観的な視点から自分の障害について見つめなおす機会になりました。学校に行く、仕事をしていく上で自分の障害を人に理解してもらうことの大切さ、それによって自分がうまく生活できるような環境を作っていくことがどれだけ大変なのかも以前よりは理解できるようになったと思っています。  私の障害は目に見えるものではないのですが、身体症状がひどく常に体調があまりよくありません。それについても「使えるものは使っていこう」という綾屋さんの言葉で私の中でどうしたらいいか悩んでいた部分がすっと溶けたような、楽になるような感覚がありました。今まで自分と同じような障害を持った人とかかわる機会が全くなかったこともあり、障害者同士での対話によって得るものがかなり多くあったと思います。考え方が「どうすればいいんだろう」から「こうすればいいのかな」に変わるだけでも、私たちのようなものに固執してしまう考え方のある、目に見えない障害者はかなり生活しやすくなるということが最大の発見でした。 ほかにも様々な体験をさせていただいた中で、今後も活用していきたいと思ったのがマッピングソフト「Visio」です。実際にDO-ITの先輩が活用されていることや、元々、言いたいことをうまく頭でまとめて言葉にすることが苦手なので、思考の整理に活用できるということがとても興味を引きました。実際にVisioを使ってみて、頭の中にあった言葉や考えを人に伝える前のワンクッションにするのにとても有効なものだと知ることが出来ました。特に、私はパソコンのキーボードを使うと頭から文章がすらすらと出てきやすいという癖が元からあったので、とても自分に向いている機能だったと思います。  私は体力や腕力がなく、普段の生活でパソコンを持ち歩くのは少し大変です。また、紙とペンではなかなか考えがまとまらないので、携帯端末でのマッピングソフトの活用の仕方を考えたらなおさら自分のためになるのではないかと思っています。  私は身体症状がひどく元からあまり体が丈夫でないのもありDO-IT期間中も体調を崩しがちだったので、ほかの参加者よりは少ない時間での参加になってしまいました。しかし、自分の今後についてだいぶ考えを変えることができたし、本当に参加してよかったと思っています。 今後もDO-ITのプログラムで参加できそうなことには積極的に参加したり、ほかに障害で悩んでいる人に対し自分の意見を発信していければいいと思っています。 ■高橋 裕利子(保護者)  娘がDO-ITに参加し、一番の収穫は障害について理解のある人に出会えたことです。わかってくれる人たちがいるとう安心感により、将来の不安が少し和らぎました。また、今までは娘の障害について、私自身わからない事が多かったのですが、自分なりにわかってやることができるようになりました。  参加する前は、きっと堅苦しいプログラムで飽きるのではないかと思っていましたが、パソコンの活用についてのプログラムでは楽しかったとメールが来て、ほっとしました。  事前に考えていたイメージよりもかなり本人のためになったようで、参加させてよかったと思いました。今後も、本人の希望があった時には積極的にプログラムに参加させてやりたいと思います。 P.13 ##パソコンと新しい技術を活用したノートテイクで、効率的に情報を収集・整理し、考える力を身につける #障害や病気を抱える若者にとって、ITを活用することは、自らの能力を発揮する上で協力なツールとなります。ところが、多くの人は、すでに持っているWindowsパソコンにたくさんのアクセシビリティ機能を十分に使いこなし、身近なITツールを組み合わえることで、日常に存在する困難を低減することができると考え、障害をもつ若者たちへ積極的な活用を勧めています。 2011年度夏季大学受験プログラムでは、スカラーたちが、「クラウドコンピューティングで広がる未来」(講師:加治佐俊一氏 日本マイクロソフト株式会社 CTO)、「Windows のアクセシビリティ機能を使いこなす」、「思考の整理を助けるテクノロジー(Visio)」、「OneNote+ICレコーダー+携帯カメラで生まれるデジタルノート術」「スケジュールテクニック 〜携帯、リマインダで生活をオーガナイズする〜」という講義を受け、IT活用やITの展開について学びました。 Sponsored by Microsoft P.14 ##DO-IT Japan 小学生向けプログラム ##ハイブリッド・キッズ参上! #DO-IT Japan 2011は、読み書きが苦手なだけで「学びたいのに学べない」子どもたちに対して、テクノロジーを使用した学習方法を教え、彼らが自立した学習者になるお手伝いをしようと、小学生プログラムをスタートしました。子どもの能力とテクノロジーの作り出す力とのハイブリッドで、子どもたちはどのように変わっていくのでしょうか?  自分の手できれいな文字を書くこと、本をすらすらと音読できることって、そんなに大事でしょうか?授業中の先生の話をちゃんと理解しているのに、質問に対して口頭でだったらちゃんと答えられるのに、好奇心旺盛でいろいろなことを知りたい、学びたい、と願い、努力を積み重ねてきているのに、うまく書けない・読めない、それだけのために学びの機会を奪われている子どもたちがいます。  そのような子たちに対しての読み書きの訓練って、本当に重要でしょうか?がんばりやさんの彼らは、「いっぱい書いたらうまく書けるようになるよ。がんばれがんばれ」と言われて、一生懸命書く練習をします。練習の甲斐あって、書くスピードがちょっと早くなった!…でもその間にも、クラスの授業はどんどん進行していきます。「読み書き」という基本的なところでつまずいている彼らは、がんばってもがんばっても取り残されてしまいます。学ぶ意欲に満ち溢れていた彼らですが、ここまでくると、「がんばっても無駄だ…」と、がんばるのをやめてしまいます。「ぼくは、だめなんだ…」と自尊心がどんどん低下していきます。  そこでDO-ITでは2011年より、ただ読み書きが苦手なだけで、「学びたいのに学べない」子どもたちに対して、テクノロジーを使用した学習方法を教え、彼らが自立した学習者になるお手伝いをしようと、小学生プログラムをスタートしました。彼らが自分自身の困難をテクノロジーによって克服し、本来の能力を発揮して大学進学・就職をし、最終的に自分たちの手で社会を変えていくことを願っています。 ■夏季プログラム内容 ・自己紹介をしよう ・読み書きを支援するテクノロジーを体験してみよう ・テクノロジーを使って考えよう「ワープロを使って試験を受けるのはずるい?」 ・テクノロジーを使って考えを表現しよう「どんなロボットをつくりましたか?」 ・ロボットクリエーター高橋智隆先生の話を聞こう P.15 #iPadを使ったらなんでもできる! 藤巻 賢仁 DO-ITで楽しかったことは、iPadでロボットの写真をとって、Keynoteにまとめたことです。自分でつくったロボットの写真や文字を入れて発表できて、かなり楽しかったです。高橋先生が見せてくれたエボルタくんがかわいかったです。写真がとれて幸せな気分になりました。iPadがあったので、先生の話も聞きやすかったです。録音をしたりビデオをとったりしました。家に帰ってそのビデオを5回見ました。高橋先生がロボットクリエーターになったわけを教えてくれて勉強になりました。ぼくも将来ロボットクリエーターになって災害の場所を救助するロボットをつくりたいです。設計図を書くときは、紙とペンだとミスったりずれたりしてしまうので、iPadを使いたいです。 他に楽しかったのは、ピザを食べる前に「何時何分に来なさい」という連絡を写真にとったことです。スリルがありました。学校でも、ノートを書くときにiPadを使って黒板の写真をとればいいと思いました。 ■藤巻 明香(保護者)  今回、親子ともに実りのある二日間を過ごすことができました。参加前は、何年も先の大学進学に向けてのプログラムへの参加は、早すぎるように思っていました。また、行きたい学校に行けるように、と言うのは、高望みのようにも思っていました。しかしながら、参加後は、決して早すぎる参加ではなかったことがわかりました。それは、苦手さに応じた勉強方法を身に付けるには時間が必要な事と、勉強が難しくなる小学校高学年くらいから、勉強を一緒に頑張る仲間を持つことが良いと思えたからです。  今回、熱意を持って接して下さる先生方や、同じように進学を考えている保護者の方に出会えたことも、本当に良かったです。息子にとっても、苦手さを気にすることなく学べる仲間や機器との出会いは貴重だったようです。DO-ITで知り合った仲間たちと成長していってくれたら、と思います。 #配慮をしてもらって、できることが増えるのはいいことだと思います。 渡邊 幸音  私は、DO-ITに参加して、読み書きが苦手でも、アインシュタインのようにすごい人がいることも分かったし、本当に頭が良いということがどういうことか、良く分かりました。そして、iPadを使ってみて、本当に魔法の筆箱だと思いました。特に、話したことが文字になることには、びっくりしました。  私は、問題がたくさんあったり、文章がたくさんあると頭の中がごちゃごちゃになるので、問題を拡大コピーして、少しずつやったり、お母さんに問題を読んでもらったりして、工夫して勉強していました。書くことが特に苦手なので、ノートもとれません。連絡帳を書くのも大変です。でも、iPadがあれば、文字を拡大出来るし、カメラで黒板をとったり、録音したり、文字を打つことも、簡単に出来ると思いました。私は、学校で、みんなと同じように出来ないことがたくさんあって、つらいけど、iPadを使いこなして、楽しく勉強出来るようになりたいです。 ■渡邊 志づの(保護者)  学年が上がるにつれ、「私はダメだ…」という思いが強くなり、学校に行けない日も増えていき、不安な日々を過ごす中、DO-ITのことを知りました。応募要項に「大学進学を目指す」とあり、「学校に行きたくない!勉強大嫌い!」と泣き叫ぶ幸音には「とても無理…」と正直思いました。それでも、知的好奇心が旺盛で、知識も豊富で、発想の豊かな幸音の良い所を少しでも伸ばしてあげたいという親心と、本人の強い希望もあり、参加させて頂きました。  様々な支援機器を紹介して頂き、苦手さを補いながら、伸ばせる能力があるということを実感しました。幸音は、特に漢字を覚えることが苦手なのですが、iPadで文章を作成すると、意外に正しい漢字に変換することができ、自信を持てたようです。書くことが苦手で、ノートも取れない幸音が、楽しそうに文章を作成する姿を見ていると、今まで描けなかった未来を描けるような思いがします。 P.16 #配慮をしてもらえないことは筆箱を中身ごととりあげられるくらい大変なことだと思います。金坂 律 DO-ITに参加して心に残ったことは、最新エボルタを見せてもらったことです。まだ公表されていないのを見せてもらえたのでびっくりしました。また、エボルタがクロールみたいになっていたのにも驚きました。でも、高橋先生の研究所はごちゃごちゃしていました。 DO-ITで勉強になったことは、iPadの機能をいろいろ使えるようになったことです。例えば、Mathbotなどのアプリをつなげて運用できるようになりました。また、カレンダーの機能を使って予定表作りもできるようになりました。予定表作りは学校でも使っています。予定がわかると安心できるのでとても便利です。 ■金坂 光(保護者) 今回のプログラムでは一般公開講座に出席したり、同じ書字障害のお子さんを持つお母様達とお話をする機会を得ました。が、正直言いまして少し悲しい気持ちもしました。それは講座で聞いたアメリカでの支援の手厚さに比べ、日本ではほとんど何も支援されていないのだと、改めて感じることになったからです。他のお母様達とお話した時も、書字に障害のある子供はワープロなどの機器を使うことを許されていないし、手助けもされないという状況はどこも同じ。これでは、子供達がどんなに勉強がしたいと望んでも、高校進学さえ難しいでしょう。 でも今は、これから変わってくると思ってもいます。実際、律はDO-ITで借りたiPadを学校で使い、これまでできなかった活動ができるようになりました。学校にも意欲を持って登校できるようになってきています。これは彼が6年間の学校生活でやっと得た、一つの“希望”です。そして私は、この希望を中学・高校へと繋げられれば、と願っています。 #iPadを使って苦手なことができるようになって勉強がすきになるほうが、配慮をされないよりいいと思う。水上 陽太郎  心に残ったことは2日目のレゴでロボットを作ったことです。エボルタ君を触ったことも心に残りました。勉強になったことは、高橋さんのロボットの話で、昔と今のロボットの違いを知ったことです。昔は安さと性能の良さを求めていたそうですが、今はユーモアや楽しさを表現するロボットが増えているそうです。お母さんにその話をしたら、時代は変わるんだねと言いました。  これまで学校で困っていたことは、算数プリントの問題が多いと、なかなかとりかかれないし、少なめに絞ってやっても良いと言われてもやる気がしなかったことです。漢字練習も同じです。同じことを繰り返すのがとても嫌だからです。計算問題で工夫していたことは、学校では特にありませんが、家では、タイマーを使って時間を区切ってやっていました。漢字練習については、みんながやる半分の量をやるようにしました。作文など文章を書かなくてはいけない時は、DO-ITでやったように、iPadで文字を打って、それをプリントアウトして貼り付けることが出来たらいいと思います。  夏休みの日記の宿題は、プリントアウトしたものを鉛筆で写しました。それでやることが出来ました。学校の勉強に対して思っていることは、iPadを学校で使いたいと言っても多分学校の先生にはダメと言われるので、あまり学校の勉強は好きではありません。教室の中で遊びたいのに、「外で遊べ、外で遊べ」と言われることも嫌です。 ■水上 麻美(保護者)  広汎性発達障害のアスペルガータイプと診断された息子を育てています。3年ほど前、彼の学校や日常生活でのつまずきをどう解釈したら良いのか、息子をどう育てれば良いのか、先が見えないトンネルに入ったような気持ちのまま、3人の医師達を訪ねましたが、どの医師からも「残念ながら今の日本には、お子さんのような子ども達が学ぶ場所がないんです」というコメントが返ってくるばかりで暗澹たる気持ちになりました。この夏、DO-ITに参加するチャンスを頂き、中邑教授の熱い思いに大変胸を打たれ、さらに修了式で「未来を変えるのは私たちなんだと思った」という感想を述べた高校生の言葉に勇気をもらうとともに喜びを感じました。数年後、息子が彼女と同じ思いを持ってくれたら、その時が彼の本当の人生の始まりのような気がします。今はたくさんの小さなつまずきと格闘する毎日で、今後も紆余曲折があると思いますが、DO-ITでの取り組みの成果が少しずつ社会に広がってゆくように、息子と共に、スタッフやスカラー親子のみなさんのお力を拝借しながら前進を続けたいと思っています。 P.17 #ぼくは字を読むのは大好きですが、黒板に書いてあることをうつせません。だからデジカメでとれたらすごくいいなと思いました。都築 駿太 えーっと、3÷5…ああっ消えた。 算数のときはこんな感じです。最初のときはがっかりしてたけどだんだん、まあいいかと思って来たけどテストの前、見返したい時いつもこまっていました。そんなとき子供病院の鴨下先生がDO-ITをおしえてくれました。その時僕はDO-ITは知らなかったけど鴨下先生が良いよ、と言うことはやってみようと思いました。  僕の夢を書いたら、東京からスタッフの人がきてくれて、面接で話しを聞いてDO-ITで僕の可能性が広がる、夢が叶うと思ってぜったい参加したいと思いました。7月のなかばにiPadが届いてとても嬉しかったです 。  そして、8月4日、ドキドキしながら東京大学の門をくぐってDO-IT教室に、行きました。そこで初めて会う友達や、大人がいっぱいいて、更にはNHKの取材も!!そのときは頭がクラクラしそうでした。でも一番は、iPadの操作を教えてもらう事でした。  最初にオープニングセレモニーをして次に自己紹介をしてとっても緊張しました。DO-ITの前にiPadに保存されていた宿題で本当の外国人が来たときビックリしました!  2日目はやっぱりロボットクリエイターの高橋さんにあったことです。ドキドキしてなかなか話せなかったけど、エボルタ君のビデオを見たり撮ったりiPadでしました。高橋さんの話で、大学の論文は書いてないといっていました。大学は、論文を書かないと卒業出来ないと思っていたからビックリしました。文章を書くことが苦手でも、 自分の考えをしっかり話せればいいんだと思いました  これからiPadを使って、綺麗に書こうと思っても書けなかった字を書いたり、マインドマップを使って自分の気持ちを整理したり、オーディオノートや、Keynoteで考えている事や、思っている事を伝えられたらいいな、と思っています。もっともっとiPadを使って達人になって、勉強も楽しくなれば、科学者の道も近づくと思います。 ■都築 明美(保護者)  DO-IT小学生プログラムに参加させていただき、駿太の自信につながり飛躍の夏になりました。ありがとうございました。  いままでは、何か壁にぶつかると、落ち込んだり後ろ向きになる事が多くありました。その事で駿太も家族も辛かったのですが、iPadを使い、自分の気持ちを整理できたり、思った事を文字に残す作業が簡単で早くなるのがわかると、それが楽しくなり積極的に活用するようになり、“自分でできる。大変じゃないんだ”と自信になり、少しづつですが前向きに考えられ、学校での勉強や宿題も積極的に机に向かえるようになりました。  課題はまだまだありますが、今度は私も障害の理解や、D0-ITの活動を世に広める為、何ができるか挑戦していきます。大学まで道程は長いですが、一つ一つ子供と乗り越えていきたいと思います。ありがとうございました。そしてこれからもどうぞよろしくお願いします。 P.18 ##鉛筆もノートも使わない授業を、情報通信端末で実現する。 #読み書きに困り感を持つ子どもたちにとって、鉛筆とノート、紙の教科書を使った授業で能力を発揮するのは非常に困難です。でも、黒板の文字をノートに書き写さないならカメラでとればいい、先生のお話をメモできないなら録音すればいい、文字を読めないなら読みあげてもらえばいい…これらすべてのことが、情報通信端末を使うことで可能になります。このことで、授業で輝く彼らの姿を見ることができるのです。 小学生プログラムでは、読み書きに困り感をもっている子どもたちに、情報通信端末を使用して学習する方法を紹介しました。情報通信端末のカメラ機能で黒板を撮影したり、動画や録音の機能で先生のお話をメモしたりすることで、講義を難なく受けることができました。加えて、オンラインでチャットができる場を授業中に設定することで、ジュニアスカラーそれぞれの考えを共有することができました。また、マッピングソフトや発表のソフトを活用することで、自分の考えを整理して表現することができました。 Sponsored by ソフトバンクモバイル株式会社 株式会社エデュアス P.19 ##DO-IT Japan 大学生リーダー向けプログラム ##困難な局面に挑戦し、社会を変えるための交渉力をもつリーダーを育成する。  DO-IT Japan 2011は、障害や病気による困難を抱える大学生へ、企業訪問やカンファレンスへの参加、海外派遣など、様々な社会や文化にふれる機会を提供してきました。そして、個人の努力だけを求める社会を、合理的配慮を提供する社会へ変革するための機動力あるリーダーを育成していきます。 ■冬季大学生リーダー研修(2010年12月10日〜12日)会場:国立京都国際会館 参加者9名 ATACカンファレンスのセミナーへ参加し、障害のある人や高齢者の自立した生活を助ける最新の電子情報支援技術(e-AT)とコミュニケーション支援技術(AAC)を学びました。また、モノづくりのプロによる講義や、ロールプレイ、リビングライブラリーへの参加を通し、多様な視点や価値観にふれ、他者の視点を理解する機会となりました。 ■畑中 研人  私は将来、街づくりに関わる職場で、困難を持つ人とそうでない人が共生できる社会の実現を目指したいと考えていて、そのためには様々な人々の意見をバランスよく取り入れることが課題となります。自分や自分に近い立場の人を中心にしてばかりではうまく成り立たないからこそ、コミュニケーション能力を重要な要素と考え、目標の実現に向けて、自分の弱点を改めて自覚し、多角的な思考力をつけるためのヒントを得た今回の経験は、私にとって大きな一歩となりました。 ■大橋 いづみ  障害者手帳をテーマとしたロールプレイは本当に面白かったです。(中略)私は視覚障害と聴覚障害と心臓病があり、心臓病1級、視覚障害2級ですが、聴覚障害は50dBなので手帳は交付されません。心臓病は年に1度の定期検診をしているだけで、皆と同じように運動もできるので、生活に全く支障はありません。それより、手帳がないために特別措置がしっかり受けられない聴覚障害の方が困ります。私は、診断だけで手帳を交付するかしないかを決めるのではなく、日常生活で具体的にどんな場面でどれくらい支障を来しているのか、というところに目を向けるべきだと思いました。 P.20 ■海外派遣(2011年2月21日〜25日)会場:アメリカ合衆国ワシントン大学 参加者2名 アメリカ合衆国ワシントン大学に大学生リーダー2名を派遣。DO-IT U.S.A.のスタッフや学生と親交を深め、それぞれの場所での障害学生の支援や就労について議論を通し、文化的な背景や歴史、障害に対する考え方の差異について学びました。また、マイクロソフト本社(Redmond Campus)へ訪問し、最新のアクセシビリティやテクノロジーについて知を深める機会をいただきました。 ■豊田 陽平  私は、Transition Specialist という専門職がアメリカにあることを知ったことをきっかけに、日本でも「スクールソーシャルワーカー」があると思い当たりました。(中略)スクールソーシャルワーカーは、現在は不登校やいじめを受けている児童・生徒への支援がメインですが、将来的には、障害学生が高等教育を受ける時のサポート体制の構築や、長期入院していた児童・生徒が元の学校に復帰する時の環境調整などの移行支援ができるのではと考えました。  アメリカから帰国した後、レポートの作成や DO-IT Japan のメンバーとのやりとりから、「自分ができること」は当事者の声を拾い、それを社会に届けることではないだろうかと思いました。今の自分の目標は、仕事を通して、当事者の声を社会に届けることです。そして、それを実際に社会に反映させることができる仕事をしたいです。 ■小林 春彦  私にとって生まれて初めて上陸したアメリカは、訪れる時まではドライな国に見えた。実際には移民が多くを占める国でもあるので、男女、人種、障害を取り巻く問題に当事者たちが強く主張し、そんな多様性の中から巻き起こる突き詰めた議論を行ってきた歴史があった。そしてその先に限界と可能性を見極めて突き抜ける、爽やかなフロンティアスピリッツを感じた。私は生活をするなかで常々息苦しさを感じているが、この日本で私にできることは、社会への疑問には素直な声を上げること、人間、社会という答えの無い問題に思考を止めることなく、ずっと皆で議論と先導的な実践を続けていくことが大切であると今は感じている。 ■夏季プログラム(2011年8月2日〜5日)会場:東京大学先端科学技術研究センター 参加者14名(内、話題提供者としての参加者11名) 2011年度は、大学生リーダーは聴講生として参加するだけでなく、11スカラーの講義や一般公開シンポジウムでの話題提供者となり、普段のテクノロジーの利用や大学生活、受験体験などについて発表しました。先輩が後輩に自らの経験や技術を伝える、これからのDO-ITの姿が見え始めました。 ■山ア 康彬 私の発表のテーマは、「一人暮らしで楽をしよう!」でした。障害者の一人暮らしを想像したとき、そこに生じる困難のため、不安を抱える人も多いと思います。しかし実際、私は多くの人の助けを借りることで、一人暮らしをしながら大学生活を満喫しています。そんな私の生活を伝えることで、「大丈夫だよ!」と、不安を抱える後輩を励ますことができると考えました。(中略)私の実体験から、全てのことに全力を尽くすことは不可能です。(中略)だから、目の前のこと全てに一生懸命やろうとする気持ちをこらえる勇気を持ち、「全力で一生懸命やるべきこと」と「力を抜くべきこと」を整理して、ペース配分を考えなければならないのです。大学生の私にとってのペース配分は、前者が「講義やサークル」、後者が「一人暮らし(特に家事)や通学」だと考えています。 P.21 ■秋季大学生リーダー研修(2011年10月20日〜22日)会場:富士通株式会社、株式会社資生堂、株式会社マガジンハウス、東京大学安田講堂 参加者6名 大学生リーダーは数年後に社会人として社会に出て行きます。今回、3社への訪問を通し、それぞれが働く姿をイメージすることができました。プロとして働く人たちの働き方や意見を伺うことで、大学生リーダーが今後、社会人として、リーダーとして、いかに自己表現していくか、深く考える機会となりました。 ■永野 椎奈  富士通株式会社へ伺って就職について深く考える機会を与えていただきました。まだ大学1年生だから、とどこか就職についてはあまり考えていませんでしたが、今回の研修を通じて「自分にできること」は何かを探したいと思いました。実際に富士通社で働かれている障害を持った方の話も聞くことができ、とても参考になりましたし、障害に固執せず、自分のやるべきことを明確に持っていらっしゃる姿勢に尊敬の念を抱きました。今回の経験を将来に生かしていきたいと感じます。 ■高柳 来未  先日は資生堂社において貴重な体験をさせていただきました。私自身お化粧をしたことがなかったので、変わった自分を見られてうれしかったです。私が今まで、お化粧しなかった理由は失敗するかもしれないという恐怖があったからです。自分の顔にお化粧をするのは覚悟がないとできないことだと思っていました。しかし、当日は資生堂の方にうまくサポートしていただき、お化粧は楽しいと心から感じることが出来ました。これから、社会人の身だしなみを身につけるためにお化粧を勉強したいと思います。 ■山岸 令奈  マガジンハウス社でお話を伺って、雑誌はテレビとは違い、ある一定期間人々の目に触れ、内容をじっくりと味わうことができるので読者が新しい自分を発見できるきっかけになるのではないかと考えました。また、頂いた雑誌から書き言葉は話し言葉よりも表現することが難しいということを感じ、書き手の言いたいことを多くの読者に伝えるということは語彙力が必要であると思いました。私は今後自分の思いが多くの人に伝えられるように、今まで以上に活字に触れ語彙力と文章力をつけていきたいと思います。 ■リビングライブラリー 2010年12月12日(会場:国立京都国際会館 参加者9名)、2011年2月1日(会場:富士通デザイン株式会社 参加者6名)、2011年6月3-4日(会場:東京大学先端科学技術研究センター 参加者2名)、2011年10月20日(富士通株式会社 参加者4名)  リビングライブラリーは様々な経験をもつ当事者が「生きている本」となり、「生きている本」と読者との30分間の直接対話を通し、多様性への理解を図るという試みです。DO-IT Japanでは、大学生リーダーが「生きている本」として参加し、自らの困難を他者へ伝える経験を積みました。また、同時に、ホームレス、薬物依存症回復途上者、セクシャルマイノリティなど、様々な背景をもつ「生きている本」の話に読者として耳を傾け、多様な価値観にふれる機会としています。 ■川端 舞(2010年12月12日 参加)  今回、私はリビングライブラリーに読者としても参加した。障害者という枠にはまるのがいやで、あえて障害者以外の本を選んだ。どの本も今まで私が踏み込んだことのない世界を持っていた。その世界は、いわゆる世間の言う普通の人間が歩む人生とは全く別の世界。しかしだからといって、その世界を誰も否定はできない。そこに意志を持った人間が現実に生きているのだから。彼らは独自のアイデンティティを持っていて、そのアイデンティティは世間の中では否定されてしまうこともあるだろう。しかし彼らにそのアイデンティティがなかったら、彼らは彼らでいられるのだろうか。おそらく無理だろう。それは世間で言う型にははまっていないが、彼ら自身を縁取っているのだから。私にとっての障害もおそらく同じようなものだろう。私は障害を持っていない自分を想像できない。もし私が健常者だったら、全く違う人生を送っていただろう。今ほど苦労もしなかったし、性格もこれほど曲がっていなかった。しかしそんなことを考えていても、私は障害者でしかない。いつか、障害者というアイデンティティを堂々と出せる人間になりたい。 P.22 ##自らの困難を相手にわかりやすく伝え、合理的な配慮を得る力を育む。 #障害をもつ若者たちが社会で働く上で、合理的な配慮を得ることは重要です。大学生リーダーは、近い将来、就職活動や就職を経験することになります。そのときにも、自らの努力と根性で全ての解決を図るよりは、必要に応じてIT機器を活用し、他者へ合理的な配慮を求め、環境を調整することで、本来の能力を発揮することができるのです。 ■10月21日 秋季大学生リーダー研修(富士通株式会社 訪問) ■「リビングライブラリー」自らの障害や困難を適切に語り、周囲に理解を求める。 周囲から適切な配慮を得るためには、自らの障害についてきちんと説明することが求められます。そこで、2011年度は、大学生リーダーが「生きている本」となり、富士通社員の方へ、自らの経験について語りました。読者として参加した富士通社員からは、「利用者がテクノロジーから優しさを感じている、という話が印象に残った」などの他、多くの気づきにつながったという感想が得られました。 ■「企業で働くと言うこと」講師:豊田 建 氏 (富士通株式会社人事部人材採用センター センター長) 企業で働くことはどういうことなのか。社会における企業の役割を知り、社会の仕組みや企業だからこそできる仕事について学びました。 ■「就職面接の構造理解と自己PR作成」講師:宮尾 健史氏(富士通株式会社人事部人材採用センター シニアマネージャー) 就職活動で最も重視される面接。面接の構造を教えていただき、効果的に自己アピールするためのエピソードの作成のこつを伺いました。 ■「企業で働く先輩の話」講師:杉本 有理 氏(富士通株式会社モバイルフォン事業本部ソフトウェア開発統括部 )、佐々木 裕一 氏(ミドルウェア事業本部 サービスマネジメント・ミドルウェア事業部第一開発部) 障害をもって企業で働く先輩2名と交流し、仕事の内容や働き方、働いていて楽しいと思うことや今の仕事を選んだ動機などを伺いました。 Sponsored by 富士通株式会社 P.23 #化粧体験や撮影体験を通して自らと向き合い、自己表現を学ぶ  化粧の歴史や化粧の持っている力について学び、実際にプロのメイキャッパーに化粧をしていただきました。化粧を終えた後、大学生リーダーたちは心なしすっと背筋が伸び、凛とした雰囲気が漂っているように見えました。化粧を終えた大学生リーダーからは「自信がつきました」などの感想が得られ、化粧という装いの効用を目の当たりにしました。  その後、大学生リーダーは、雑誌「クロワッサン」のプロカメラマンによって、ポートレートを撮影していただきました。最初は緊張していた大学生リーダーの表情が、カメラマンを含むスタッフからの言葉かけによって、徐々に(人によってはすぐに)やわらいだ表情に変化していきました。訪問後、プレゼントしていただいたポートレートには、びっくりするくらい自然で魅力的な大学生リーダーの姿がありました。  今回、メイキャッパーとカメラマンというプロの技術により、大学生リーダーの「その人らしさ」が最大限に引き出される経験をしました。また、化粧と撮影の体験から、それぞれが自分の中にある新たな一面に出会い、「自分」という枠組みに新たな視点を加えることができたようです。障害を含む、自分のイメージを捉え直し、これからの自己表現について考えを深める、大切な機会となりました。 協力 資生堂ライフクオリティー ビューティーセンター #表現のプロに学ぶ、仕事の流儀  雑誌「Tarzan」の大田原編集長から、雑誌が発売されるまでの間に、いかに作業が組み立てられ、どのように特集やテーマが決められ、メンバーがそれぞれの役割を果たしながらチームとして働くかを伺う中で、1冊の雑誌が作られる流れや、背景の膨大な作業について知ることができました。その後、「Tarzan」編集部を訪問し、実際に編集部のスタッフの皆様が忙しく働かれている様子を見学させていただきました。  大田原編集長やスタッフの方の話から、読者となる人々をリアルにイメージすることで、誌上で用いる言葉の選び方が異なってくることなど、人に「伝える」ためのポイントをたくさん教えていただきました。大学生リーダーにとって、普段の生活ですぐに活かせるだけでなく、将来仕事をする上で大切にしていきたい智慧を得ることができました。 協力 株式会社 マガジンハウス P.24 ##様々な企業・機関に支えられる DO-IT Japan ■沖電気工業株式会社 夏季大学体験プログラム準備期間に、配布資料作成用の印刷機をご提供いただきました。DO-ITでは多くの資料を印刷するため、高速大量印刷のできる高性能プリンターが大活躍でした。 ■株式会社 トヨタレンタリース東京 夏季大学体験プログラム期間にリフト付き車両を2台無償でお貸しいただきました。自力での移動が体力的に難しいスカラーや体調を崩したスカラーの移動に使わせていただきました。 ■オリンパス株式会社 2011年度スカラー全員にICレコーダーをご提供いただきました。肢体不自由がありノートを取りにくいスカラーや、視覚障害があるスカラー、読みに困難のあるスカラーなどが普段の学習に役立てています。 ■株式会社 京王プラザホテル 夏季大学体験プログラム、秋季大学生リーダー研修プログラムの期間中、スイートルームを含む宿泊プランを安価にてご提供いただきました。一流のホテルでサービスを受ける経験は、スカラーが場に即した場に即した立ち居ふるまい方を身につける機会となっています。(121字) ■フォナック・ジャパン株式会社 夏季大学体験プログラムの参加者のために、最新の補聴器を無償でお貸しいただきました。聴覚障害がある学生のほかに、発達障害による感覚過敏のあるスカラーが補聴器を利用して講義を受け、「聞き取りやすさ」を体験することができました。 ■株式会社アクセスインターナショナル 夏季大学体験プログラムの参加者のために、最新の電動車椅子2台を無償でお貸しいただきました。手動車椅子利用のスカラーが電動車椅子に試乗する機会となったほか、体調を崩したスカラーの移動にも活用させていただきました。 ■アジアがんフォーラム 研究者の集まる団体として、DO-ITの大学生たちに働くことを考える場を提供していただきました。 ■以下の機関・大学の先生、および、学生の皆様にもご協力いただきました。 アドバイザー:石川県立明和特別支援学校、愛媛大学、香川大学、東京大学、徳島文理大学、日本福祉大学、早稲田大学 チューター(学生):香川大学、国際基督教大学、星槎大学、東京大学、筑波大学、ワシントン大学 P.25 ##一般公開シンポジウム ##障害のある児童生徒・学生の受験における光と影〜入試や大学での支援の最新情報と体験者の生の声から考える〜  DO-IT Japanには、大学入学を目指す、様々な障害のある高校生や障害により読み書きに困難のある小学生が参加しています。障害のある児童生徒・学生が高校や大学への進学を目指す際、どのような配慮が必要でしょうか?また、大学入試では実際にはどのような配慮が受けられ、その配慮の申請手続きはどんなものなのでしょうか?さらに今後、将来的にはどのような配慮が行われるようになると予測できるでしょうか?高校や大学での配慮の現状と、障害のある大学生たちの受験の実体験を通じて、今年も彼らの「受験」を取りまく現状と未来について議論しました。(2011年8月5日 会場:東京大学先端科学技術研究センター3号館南棟大ホール) ■「大学での障害学生支援および受験に関する最新情報」  高等教育機関への進学を望む、障害のある学生本人を取り巻く状況は、発達障害のある受験生への特別措置が始まるなど、日々、変化を続けています。障害学生の高校から大学への移行について最新の情報を共有するために、全国で高等教育での障害学生支援に先進的な活動をしておられる方々に話題提供をお願いしました。 □話題提供者1:白澤 麻弓(日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワークPEPNet-Japan) 「聴覚障害学生の可能性を広げる支援: 日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)の取り組みから」  聴覚および視覚障害のある学生のための専門の高等教育機関である筑波技術大学で行われている教育や支援内容の詳細について紹介された。また、聴覚障害学生の支援ネットワークであるPEPNet- Japanの取り組みを通して見えてきた聴覚障害学生支援に必要な情報保障、支援体制、学生自身の在り方について紹介された。 発表資料:http://www.doit-japan.org/download/2011sympo/02_shirawsawa_pepnetj.pdf □話題提供者2:青柳 まゆみ(筑波大学 障害学生支援室) 「筑波大学における障害学生支援」  入学時の特別措置や障害者だけが受験できる障害者特別選抜の紹介、ピア・チューターと呼ばれる学生ボランティアを中心とした筑波大学の障害学生支援制度の内容など、筑波大学の障害学生支援活動が、全学組織として学長の下に作られた障害学生支援室の活動を通じて紹介された。 発表資料:http://www.doit-japan.org/download/2011sympo/01_aoyagi_tsukuba.pdf □話題提供者3:立脇 洋介(独立行政法人 大学入試センター) 「大学入試センター試験における特別措置の現状: 発達障害学生への特別措置開始を中心に」  大学入試センター試験での特別措置に障害のある受験生が申請するまでの具体的な流れと注意すべきポイントを、平成23年度1月の試験から実施された発達障害者向けの特別措置申請の事例を通じ、申請書の項目それぞれの内容について紹介された。また、現存する課題として、時間延長の限界や、音声読み上げなどのテクノロジー利用が可能であっても導入されていないものがあること、個別ニーズへの対応の難しさが挙げられた。今後の柔軟な対応に向けての解決案についても提言された。 発表資料:http://www.doit-japan.org/download/2011sympo/03_tatewaki_ncuee.pdf □話題提供者4:田中 久仁彦(独立行政法人 日本学生支援機構) 「全国の高等教育機関における障害学生の現状: 平成22年度の実態調査から」  高等教育での障害学生数は、昨年から約1,700人増加し、8,810人となった。特に顕著な伸びを示していた障害種別は「発達障害」と「その他」で、それぞれ約500人、700人の増加が見られた。高等教育機関が何らかの支援を提供している障害学生数も5,253名と前年度から約1,000人増加した。その増加数を障害種別で見ると、発達障害とその他種別が8割、内部障害が1割、視覚・聴覚・肢体不自由を合わせて1割という構成であり、発達障害とその他障害学生への支援数の顕著な増加が見られた。 発表資料:http://www.doit-japan.org/download/2011sympo/04_tanaka_jasso.pdf 上記調査の詳細:http://www.jasso.go.jp/tokubetsu_shien/chosa1001.html P.26 ##「大学へ進学する障害学生に残された問題 〜大学入試を経験した様々な障害のある学生たちの体験談から考える〜」  DO-IT Japanとの連携により、希望する特別措置の根拠となるデータを添付して申請することで、センター試験やその他の大学入試選抜試験での特別措置に明記されていない書字障害への配慮を申請した学生、希望する大学が施設面のアクセシビリティが低いために入学を受け入れらなかった経験を何度も積んできた学生、受験や入学後の生活の準備に長い時間がかかるために推薦入試を選ばざるを得なかった学生、生得的な盲ろう者で日本で初めての大学進学を果たした学生からの体験が報告されました。 □話題提供者1:齊藤 真拓(アスペルガー症候群、書字障害)  アスペルガー症候群と同時に、読むことは得意だが書字障害のため手でペンを使い文字を書くことに障害がある。そのため、小論文を作成することに困難があり、某国立大学AO入試の受験に際して小論文でのワープロ利用を申請している。また、聴覚過敏から日常的にノイズキャンセリングヘッドフォンを使用している。書字障害では、過去にワープロ利用が認められた事例は公表されていない。※一般公開セッション終了後、進学希望の大学から、ノイズキャンセリングヘッドフォンと小論文でのワープロ利用を認める許可が下り、さらにその後、無事合格の知らせが届いた。 □話題提供者2:北田 翔吾(骨形成不全症による肢体不自由、電動車いす使用者)  現在は大学生として都内の私立大学の情報工学系学部に進学している。受験時は、某大学工学部への進学を希望していたが、建物が古く、彼の移動に不可欠な電動車いすが建屋内に入れなかったり、エレベータが設置されていないこと、実験への参加が難しいことが危惧されることから、この大学を含め、いくつかの志望校から入学を受け入れられなかった経験とその経緯を紹介した。未だ大きな問題として残されている大学の建築物や実験のアクセシビリティについての問題提起が行われた。 □話題提供者3:山ア 康彬(脳性麻痺による肢体不自由、電動車いす使用者)  現在はヘルパーサービスを利用してひとり暮らしをしながら、推薦試験を受けて志望校に合格し、某国立大学に進学している。肢体不自由のある受験生が進学を志したとき、4月からの授業開始に間に合わせるためには早期から現地の住居をアクセシブルにするための改造と、ヘルパー利用体制の準備が不可欠である。1月〜3月までのセンター試験及び一般受験では準備が間に合わないため一般受験を諦める必要があったこと、住居やヘルパーなどのサービス利用の打ち合わせのために何度も受験前に現地に通う必要があるために、それが可能な地理にある大学を選ぶ必要があったことから、大学選択に障害者独特の壁が存在していることが報告された。 □話題提供者4:森 敦史(全盲ろう)  全盲ろうである彼は某私立大学に今年進学したが、彼が大学に通い授業に参加するためには、常に通訳者(盲ろう者に周囲の状況や発話を伝える専門の技術を持った支援者)の支援を受けることが不可欠である。その多大なコスト負担を支援し、入学を受け入れてくれる大学の存在、支援をバックアップしてくれるボランティアグループの構築など、周囲の支援者の力を借りながら、自ら学ぶ環境を整えていった経験について話題提供された。 □討論のまとめ:合理的配慮は、障害のある当事者自身の声から始まります。進学できるところを探すのではなく、進学したい大学への受験を願う思い、個々の障害への配慮ニーズとその具体的な実現方法を論理的に説明すること、自らが後輩のために道を切り開いていく行動が、社会のリーダーとなる障害学生達に求められています。  また、この公開シンポジウムと日を同じくして改正障害者基本法が施行され、「合理的な配慮」という文言が日本の法律の中に始めて記載されました。現在、国内には差別禁止と合理的配慮の枠組みがないために、障害者の進学は大学側の温情により許されるものという現状があります。しかし、「合理的な配慮」が法律に明記されることで、今後、他の人々と変わらぬ権利として、障害のある学生も公平な競争を経て大学を選ぶことができる環境が整って行くであろうという希望が生まれた、記念すべき日となりました。 P.27 ##「障害のある子どもの高校入試を考える」シンポジウム  大学入試での障害者への配慮が広がりを見せつつある昨今ですが、それ以前の学校段階で、障害のある生徒達が学びを志す壁となっているのが「高校入試」です。このシンポジウムでは、ICT、特別支援教育、制度について専門家の話題提供を受けて、研究者・当事者・教師・行政関係者を指定討論者に迎え、障害のある子どものためのこれからの入試の在り方を自由に論じました。(2011年10月22日 会場:東京大学 安田講堂) □話題提供者1:中邑 賢龍(東京大学)・小松 準司(発達障害のある当事者) 「なぜ今、障害のある子どもの高校入試を考えるのか? 〜能力を活かせない社会と追い詰められる子どもたち〜」  「アンバランスな能力」を持つ子どもがさらなる教育機会を得ようとする際、読むことや数学的センスに飛び抜けた才能を持っていても、その他の、書くことや社会的なコミュニケーション能力など、ある特定の部分に偏った苦手さが見られるとき、社会的な淘汰に晒されることがある。「アンバランスさの強みを活かす」のではなく、「平均的になんでもできることを前提として弱い部分を取り上げる」ことを能力の共通理解とする社会があるとき、障害のある子ども達はその能力を社会の中で活かす道を閉ざされてしまう。実際に困難に直面してきた当事者の経験を聞く中で、社会全体が「アンバランスな能力」を活かすことを前提とする考え方にたち、その支援のためにICTなどのテクノロジーを上手に活用する必要性について論じた。 □話題提供者2:巖淵 守(東京大学)・平林 ルミ(日本学術振興会) 「ICTを活用して学力向上を目指す障害のある子どもたち 〜最新の支援技術とは?〜」  読み、書き、計算、記憶、そして移動など、支援技術でできることは多岐にわたる。また、たとえ読み障害のため文字を読むことができなくても、例えば音声読み上げなどのICTを活用して問題を聞き、解答をワープロや代筆で書き留めることができれば、テストでも高い成績を修めることのできる生徒がいる。また同時に、ICTを活用すれば、Windowsのユーザー入力を記録する機能など、標準的な機能の活用で、カンニングなど不正のできない環境を構築することも容易である。実際にICT技術によって可能となることを例示し、ICTを活用することで学習でき、試験でも良い成績を修めることができている読み書き障害のある中学生が、高校入試においてはICTはもちろん代読や代筆のサービスも認可されない事例があることを紹介し、今後の対応の必要性について論じた。 □話題提供者3:近藤 武夫(東京大学) 「障害のある子どもの高校入試の現状と合理的配慮という考え方」  障害者の差別禁止の枠組みとして、「合理的配慮」という概念が日本にもやってきた。ごく近い将来、日本版の障害者差別禁止法が制定され、高校入試や大学入試でも、学習場面でも試験の場面でも、そしてその後の就労でも、欧米で行われているような具体的な配慮が行われることが常識となる時代が来るだろう。また、一部の自治体では、差別禁止法に先駆けて、高校入試への合理的配慮とも考えられる措置を行っているところもあることが文部科学省から報告されている。米国や英国の試験での配慮内容とその法的根拠、そして試験の配慮と同時に必要な、日常的な教育場面でのインクルーシブな教育環境の実現方法について、日本と英米の状況との比較を行った。 P.28 #「みんなで入試を考える 〜大胆と思われる入試の提案と検証〜」 □指定討論者1:上野 一彦(大学入試センター 特任教授)  大学入試センター試験の発達障害に対応した特別措置の改革を例にしたLD等発達障害のある児童生徒への配慮の在り方についての提言が行なわれた。ICT利用についても、まずは通常の授業で当たり前になり、その結果として試験でも利用されることが重要である。また、大学進学に必要な「本質的能力」とは何かを考えた上で、公平な配慮が必要であり、選抜試験の公平性の担保について検討する研究が重要となろう。障害への配慮に対する情報公開の難しさ、スティグマの問題についても社会的理解が必要となる。 □指定討論者2:樋口 一宗(文部科学省初等中等教育局特別支援教育課)  内部的に特別措置についての手引きを持っている自治体もあるが、受験生は何度も受験するわけでもないため、障害者特別措置についての情報をわかりくく提示するのではなく、ホームページ上の要項など、誰もが得られるような形で公開する必要がある。学習指導要領では障害のある児童生徒の評価についても「丁寧に評価する」とされているが、学校現場でどのように実施していくのかを検討する必要がある。 □指定討論者3:森本 登志男(佐賀県 最高情報統括監)  佐賀県ではICTを医療や教育など様々な場面で活用することを目的としている。教育では授業や校務での先進的ICT利活用の取り組みを行っている。同時に、不登校や発達障害等のある児童生徒を積極的に受け入れる高等学校の取り組みなど、新しい取り組みを始めている。今後、東京大学との協働の中で、障害のある生徒の入試についても新しい取り組みを考えていきたい。 □指定討論者4:神山 忠(岐阜特別支援学校 教員)  自身が重い読み書き障害(ディスレクシア)のある生徒として過ごしてきた中で、「日本のシステムはホワイトカラーを目指す人を作る教育、そこからドロップアウトした人はブルーカラーになり、ブルーカラーの人々は一度はみな劣等感を味わう、そんなシステムになっているのかな?」と15歳の高校入試のときに感じたことがある。当時、問題を自分なりに解読して図解にまとめられるよう、別の白紙の持ち込みを教師に願ったが認められてこなかった経験がある。必要なツールを入試に使えないから認めない、ではなく、日々得られる支援が変わっていけば、子どもたちの自尊心をつぶさないよい支援ができるのではと考えている。 □指定討論者5:品川 裕香(教育ジャーナリスト)  高校入試を考えるには、中学での指導や評価を行い、高校入学後の配慮をどうするのかについて考えていかなくては、結果として「中退」という結果につながってしまう。例えば、入試では代読や代筆、別室受験の配慮が得られても、入学以降でまったく配慮が得られないという事例もあった。中学でもその場限りの「入れる高校に入ればいい」という指導をするのではなく、将来の安定就労や自己理解、不適応を起こさないことを考えると、その後の人生、ライフコースで考えた指導を行う必要がある。 P.29 ##DO-IT Japanの概要と未来への展望 #DO-IT Japanは、障害や病気による困難を抱える若者たちを支援します。  DO-IT Japanでは、2007年度から、大学進学を目指している、障害や病気による困難を抱える高校生・高卒者に、パソコンと、それぞれの困難に応じた支援機器・ソフトを提供し、大学進学を支援してきました。さらに、2010年からは大学生向けプログラムが、2011年からは読み書き障害をもつ小学生向けプログラムが新たに始まりました。このように、障害や病気による困難を抱える若者のライフコースに沿ってプログラムを用意し、ICT活用や、合理的配慮を得る力を育て、次世代の社会を担うリーダーを育成していきます。 ■障害のある若者の大学進学をめぐる状況  障害学生支援の進んだアメリカと比較すると、大学などの高等教育機関における日本の障害学生数は非常に少ないといえます(図1)。現在のところ、日本では、障害をもった若者たちが大学などへの進学を希望していても、入試制度にのることができなかったり、適切な配慮が得られなかったりして進学が阻まれる「入口の壁」の存在があると考えられます。  「入口の壁」の一つが、受験における配慮申請です。DO-IT Japanでは、2007年から、大学受験における配慮申請について、その合理性を示すエビデンスを準備する活動を障害学生と共に行なってきました。そして、活動当初に比べ、少しずつ大学の門戸が広がってきました。しかし、図2は2011年度の配慮申請の実例を示しています。この例のように、現状では、合理性に関する議論は十分に行なわれないまま、前例がないという理由で申請が却下されるケースが多数存在します。DO-IT Japanは若者たちと共に合理性に対するエビデンスを示すことで、今後も既存の大学入試制度に挑んでいきます。 ■図1 アメリカと日本における障害学生数 アメリカの障害学生数 11% [出典]米国会計検査院(2009) 日本の障害学生数 0.27% [出典]日本学生支援機構(2010) ■図2 発達障害の学生の配慮申請の実例 □配慮申請が認められたケース 発達障害(書字障害)により紙とペンでの小論文執筆が困難なため、ワープロでの作成と印刷での提出を申請 志望大学より、大学側が用意したワープロとプリンタによる試験会場での答案作成と印字による提出が認められ、無事合格 □配慮申請が認められなかったケース (高校入試)発達障害(読み書き障害)により、代読と代筆の配慮があれば試験でも良い点数を取れるが、紙とペンでは試験に参加することが難しいため、代読・代筆の配慮を申請 「自治体に前例がないため認められない。学校からではない当事者からの個別の措置申請は受け付けない」と回答された #DO-IT Japanが描く未来 DO-IT Japanの活動を通じたデータ収集 ホームページおよびセミナーを通じた学生への情報発信と支援 障害支援額の体系化 障害者雇用率の上昇 バリアフリー社会の実現 2006年 障害学生在籍率 0.16% 約5000人 2007年 DO-ITスカラー 11人 2008年 DO-ITスカラー 22人 2009年 DO-ITスカラー 31人 2010年 障害学生在籍率 0.27% 約8800人 DO-ITスカラー 42人 2011年 DO-ITスカラー 50人 2015年 障害学生在籍率 0.5% 約10000人 DO-ITスカラー 約100人 2020年 障害学生在籍率 2.0% 約40000人 DO-ITスカラー 約150人 P.30 #DO-IT Japan 2011年度データ ■参加者の障害内訳 肢体不自由 30人 発達障害 12人 視覚障害 5人 聴覚障害 5人 高次脳機能障害 4人 盲ろう 2人 ※参加者にはスカラーと大学生リーダーが含まれます。 ■スカラーの出身地 2010年度以前 北海道 宮城県 福島県 茨城県 千葉県 群馬県 埼玉県 神奈川県 長野県 静岡県 愛知県 石川県 福井県 和歌山県 京都府 兵庫県 鳥取県 岡山県 広島県 山口県 香川県 佐賀県 熊本県  2011年度参加 山形県 岩手県 東京都 滋賀県 福岡県 ■大学進学者数(2011年12月1日現在) 2007年度 スカラー数11 スカラー総数11 合格者11 2008年度 スカラー数11 スカラー総数22 合格者20 2009年度 スカラー数9 スカラー総数31 合格者27 2010年度 スカラー数11 スカラー総数42 合格者30 2011年度 スカラー数8 スカラー総数50 合格者30 ※スカラー、スカラー総数には高校在学中の者が含まれます ■メディア掲載(2010年12月1日〜2011年11月30日) 新聞 朝日中学生ウィークリー 2011年1月24日 インターネットニュース 毎日jp 2011年8月6日 ITmedia 2011年8月8日 YAHOO! JAPAN ニュース 2011年8月8日 その他 東京大学 学内広報 2011年11月24日 ※ 2011年11月、DO-IT Japanは博報賞(博報財団主催)を受賞しました。また、特別支援教育部門で特に優れた取り組みとして評価され、博報賞と併せて文部科学大臣奨励賞も受賞しました。 ■DO-IT Japanへの参加の流れ □4月 スカラー(高校生・高卒者)、ジュニアスカラー(小学生)募集告知   DO-IT Japanウェブサイト(http://doit-japan.org/)、チラシ等で、募集を告知します。参加希望者はウェブサイトから応募書類をダウンロードしてください。 □5月中旬〜6月上旬 スカラー・ジュニアスカラー募集開始 作成した応募書類をDO-IT Japan事務局へ郵送してください。 □6月上旬 第一次審査(書類選考) 応募書類に基づき、審査委員会によって参加候補者を選考します。 □6月中旬〜7月上旬 第二次審査(面接) 参加候補者にヒアリングを行ない、参加者を最終決定します。 □7月上旬〜8月上旬 スカラーとの参加準備ミーティング パソコンやICレコーダーなどの機材と、それぞれの障害にあわせた支援機器を自宅へお送りします。その後、インターネットを通じ、夏季プログラムへ参加するための準備ミーティングを行ないます。 □8月上旬 夏季大学体験プログラムへの参加 □8月中旬以降 オンラインメンタリングへの参加 メールやチャットミーティングを通じて、専門家に相談したり、様々なテーマについて仲間と議論したりします。 裏表紙 ■主催 DO-IT Japan 東京大学先端科学技術研究センター ■共催 ソフトバンクグループ(ソフトバンクモバイル株式会社、株式会社EDUAS) 日本マイクロソフト株式会社 富士通株式会社 ■協力 株式会社アクセスインターナショナル アジアがんフォーラム 沖電気工業株式会社 オリンパス株式会社 株式会社 京王プラザホテル 株式会社 トヨタレンタリース東京 株式会社 資生堂 フォナック・ジャパン株式会社 株式会社 マガジンハウス ■後援 厚生労働省 文部科学省 (五十音順) ■お問い合わせ DO-IT Japan事務局 〒153-8904 東京都目黒区駒場4-6-1 東京大学先端科学技術研究センター 人間支援工学分野 電話&ファックス:03-5452-5490 メール:info@doit-japan.org ウェブサイト http://doit-japan.org/ 発行元 :DO-IT Japan事務局 (このファイルの内容は以上です)